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コンピュータービジョン研究者の西野教授が考える『人を知る』人工知能とは?

昨今、人工知能技術が急速に進歩すると同時に我々の生活に身近な存在になりつつあり、あらゆる企業でも人工知能の活用が急ピッチで進んでいます。
京都大学でも様々な分野で人工知能関連の研究活動が進められていますが、その中で情報学研究科知能情報学専攻では『人間の高度で知的な情報処理について学び、また、それらを構築・発展させる』研究を進めています。
知能情報学専攻長の西野教授は、「現在の人工知能ブームは深層学習などのバズワードを中心として、データの知的処理という、かなり大きな枠組みでとらえられて社会にも浸透してきているが、今後さらにこの人工知能技術を実際に社会を支える技術として昇華していくためには、今一度人工知能技術というものがなすべきものを考える必要がある」と語ります。
今回、西野先生が考える人工知能の動向や、知能情報学専攻と京大オリジナルで実施している『人を知る』人工知能講座についてお伺いしました。

2019年度から開始、2021年度で3期目、過去累計160名を超える方が受講する人気講座。

知能情報学専攻での取り組みや、人工知能の動向ついてお聞かせください。

知能情報学専攻では、生命、脳・神経、認知、行動などの人間や生体の原理、画像、音声、言語といった情報メディア、さらには人間とメディアのインタラクション、人工知能や機械学習、ビッグデータといった人間と情報処理の関わる様々な側面に関する教育や研究をしています。個別の学問領域で行われてきたこれらの教育・研究を、知能と情報の観点から、横断的に俯瞰しているのが本専攻の特色です。

今は計算機処理能力も非常に強くなっていますし、実世界をセンシングしてデータ化する手法も固まってきています。さらにはそれらの大量のデータを処理する手法も多く確立されて、今人工知能は、人間の知能情報処理をただそのまま真似するのではなく、実世界の情報処理を知的に行うという、より大きな意味合いで大きく社会に浸透しはじめています。

私の研究分野であるコンピュータビジョンを例にとると、初めてコンピュータビジョンの博士論文が1960年代に初めて登場し、その後50年以上たった今、現在の人工知能分野をけん引する分野の一つとして、シリコンバレーではスタートアップのかなりの数がコンピュータビジョン関連の技術をベースとして展開してきています。
皆さんが毎日触れているような、あるいは皆さんが開発されている製品の中にもコンピュータビジョン技術は色濃く反映されているわけです。
全自動運転を代表とする最新技術の中にも、コンピュータビジョン等の最先端の人工知能技術が埋め込まれていて、同じように音声や言語を含む知覚情報処理であったり、機械学習の理論も同様に大きく躍進を遂げてきているわけです。

さらなる人工知能の活用のために必要なことをお聞かせください。

皆様も人工知能に関する技術の習得に熱心でいらっしゃると思うのですが、それだけ発展してきた分野なので、すでにいわゆる人工知能、機械学習、知覚情報処理のツールも増えてきています。ただ、それがすぐ使えるか、人工知能というカギがあって差して回せば何かがすぐできるのかというとそうではないですし、決して将来もそうなるわけではないと思います。

問題に特有の知識、分野に特有のドメインナレッジを最大限活用しないととても今の深層学習を筆頭とする人工知能技術は使いこなせないわけで、単に人工知能という箱にデータを与えるというのとは全く違うわけです。適応するドメインにまつわる知識などが非常に大事になってくるのであれば、そもそも人工知能がメインとするドメイン、ターゲットとなるドメインは何かと、即ち適用される場は何なのかと考えてみますと、それはまさに人なわけです。
社会というのは人でできているわけで、例えば自動運転でも人工知能を用いて自動化することによって運転手がいなくなったとしても街を歩く人はいなくならないわけですし、その人たちの意図を汲まなければ非常に危険なわけです。

渡ろうとしているのかとかどこに行こうとしているのかなどを予測できないと、自動運転車も事故を起こしてしまいますし、自動運転車に一気に変わるわけでもないですから、自動運転車と手動運転車が混在したときにどのように相手の運転手の意図を汲むのか、というのもAIには必要になってくるわけです。

製造業においても人間にはいとも簡単にできて人工知能には困難な問題というのはまだ数多く存在しています。なぜ人間が上手にできて機械には難しいのか、?どうしたら全自動化あるいは半自動化しつつ人間と機械が協業できるようになっていくか?あるいは直接人間をケアするような機械を考えたときにどういったことが大事になってくるか?
深層学習、大量データと色々バズワードがありますが、人工知能を語るうえで、泥臭い一筋縄では理解できない人間を語らずして進歩や応用はないわけです。

要するに、知的情報処理としての人工知能技術というのは、究極的には人間が織りなすこの実社会をうるおすためにあるべきであって、それは結局何が対象となり何に消費され、何を豊かにすることを目的とするかというと、人なわけです。その人という対象や消費者をよく知らずして、良い人工知能とはなりえないわけです。

2019年度から実施している『人を知る』人工知能講座について教えて下さい。

なぜ講座を始めたかといいますと、日本の中でも今の人工知能ブームの先頭に立つべきである我々の専攻を皆さんに知っていただき、多岐にわたる研究の社会還元をより加速していきたいという思いがあったからです。

我々が所属する知能情報学専攻は、全国でも珍しく、人間の高度知能情報処理の解明と構築という、まさに「人を知る」知能情報処理に関する研究を中心に結成された専攻です。
「人を知ることにより」より人間が使うことに適した人工知能、さらには人工知能技術を用いてよりよく「人を知る」、すなわちその知的情報処理過程を理解することにつなげる、その回転を表現したいという想いも込めて『人を知る』人工知能という講座の名前にしています。

我々は大学教員としては、未来を担う学生たちを育てることによって、未来社会を直接創造していると自負しているわけですけれども、こういった社会に向けた講座の利益をフェローシップ等を通して我々の学生を育てる援助として還元させていただいています。

人を知る人工知能に関する最先端の我々の学術へのアクセスや、何よりも教員のみならず学位を取得していく学生へのアクセスを通して、人をカギとした未来社会の協創をさせていただきたいという想いで始めております。

講座の特徴や、他との違いはどのような点があるのでしょうか?

講座では、最先端の理論などを含めた紹介などはもちろんさせていただきますし、毎年、前年から今年度への差分となるような最先端の研究もカバーします。

さらにその基盤となる理論の座学での学習、そして各研究分野のドメインに根付いた具体的課題の実装を通した応用の体験的学習をしていただくことによって、皆様の人を知る人工知能の適用に向けた礎とさせていただきたいと考えております。
直接企業の皆様に具体的なコンテクストでの相談をしていただく時間も設けておりますので、その点においても我々教員の知識へのアクセスという意味合いも持っております。

これは昨今流行っております一般の人工知能講座とは大きく性質が異なるものだと我々は自負しています。深層学習をはじめとする人工知能のツールはあくまでもツールであって、そもそもドメインナレッジというのは皆さま企業様側にあって、実際活用するのは皆さまですから、そのドメインナレッジがどのように変換できるかのアイデアを出すきっかけであったり、さらには思ってもみなかったアプローチでデータを活用したり取得したりして自社の利益のために活用するきっかけにしていただきたいと考えております。

だからこそ、皆様が来て学んでいただくという講座になっているわけです。過去2年間やってきた中でのフィードバックで一番声が多かったのは、基礎から理論を体系的に学べるということが非常に有用であった、だからこそ応用がしやすい、という内容です。

これは我々も意識して教材を準備している点でして、使える知識として学ぶという意味では一見遠回りに見える体系や、理論の習得が必須となるわけで、それをうまく演習等組み合わせながら実施しているという点でもほかの講座とは根本的に異なると考えております。

我々の専攻と皆様のそのような人の育成と流動を通して、人工知能を用いたより豊かな未来を創っていけたらと思っておりますが、そういった人を介した密な産学連携の一歩としても本講座を位置づけたいと思っています。

西野 恒(にしの こう)

京都大学大学院 情報学研究科知能情報学専攻 教授
1997年東京大学工学部電子情報工学科卒、1999年東京大学工学系研究科電子情報工学専攻修士課程修了、2002年東京大学理学系研究科情報科学専攻博士課程修了。博士(理学)。2002年から2005年まで、コロンビア大学コンピュータサイエンス科Postdoctoral ResearchScientist。2005年から2011年までドレクセル大学Assistant Professor、2011年から2016年まで同大Associate Professor、2016年から2018年まで同大FullProfessor。その間、2013年カーネギーメロン大学Visiting Associate Professor、2012年から2018年まで大阪大学産業科学研究所客員教授。2015年より国立情報学研究所客員教授。2008年NSF CAREER Award受賞。IEEEシニア会員、ACM会員。

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