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「カーブアウト」によって疼痛に対する新薬の開発を加速

AlphaNavi Phama株式会社

小児四肢疼痛発作症は、京都大学と秋田大学の研究成果にてNav1.9遺伝子の活性化変異によって生じる事が明らかとされました。アルファナビファーマが開発するANP-230は、Nav1.9の機能を抑制する世界で唯一の医薬開発品です。現在進められているANP-230を用いた小児四肢疼痛発作症の臨床試験は、その病態の理解を進める事が期待されます。京都iCAPは、ANP-230が小児四肢疼痛発作症を含む幅広い疼痛でお困りの患者さんの新たな治療手段となる事を願っています。

京都大学イノベーションキャピタル株式会社 投資担当者より

AlphaNavi Pharma株式会社(アルファナビファーマ)は2019年1月、大日本住友製薬株式会社からのカーブアウトベンチャーとして設立された。カーブアウトとは、母体となる企業が保有する一部の事業を独立させる際に、母体企業に加えて投資ファンドなどの外部出資を組み合わせる手法である。アルファナビファーマの場合、大日本住友製薬が開発してきた神経障害性疼痛を対象にした開発化合物の研究成果に、京都大学と秋田大学で見出された小児四肢疼痛発作症の研究成果を組み合わせ、2019年4月に、京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)や大日本住友製薬、複数のベンチャーキャピタルなどから約9億円を調達した。会社設立の経緯や研究開発状況について、創業者であり代表取締役である小山田義博氏と取締役の林洋次氏に話してもらった。
(聞き手:高橋秀典 2021年10月取材)

有望な薬を生かすための選択肢だった

ベンチャーを設立するまでの経緯を教えてください。

小山田 私も林も、大日本住友製薬で20年にわたって医薬品の研究、開発などにかかわっており、さまざまな開発パイプラインを推進してきました。2人がともにプロジェクトリーダーとしてかかわった開発品に、「DSP-2230(現在の開発コードはANP-230)」という神経障害性疼痛に対する開発化合物がありました。
当初は大日本住友製薬の社内でも有望な開発パイプラインの一つとして扱われていました。ところが2014年ごろ、大日本住友製薬の注力領域の戦略変更がありました。大日本住友製薬としては、精神神経領域、がん領域および再生・細胞医薬分野を研究重点領域とすることになり、ANP-230の優先順位が下がりました。
その後、開発手法などについていろいろなパターンを社内で模索したなかで、その選択肢の一つとして、カーブアウトしたベンチャーで開発を継続するという手法が浮かび上がりました。

設立までにいろいろな選択肢を検討したのですね。

小山田 カーブアウトについて私が直接聞いたのは2018年の年初です。それ以前から、大日本住友製薬と京都iCAPとの間で話が進んでいたと聞いています。大手のベンチャーキャピタルから投資を受けて社内で開発を続けるといった選択肢なども検討しました。最初に話を聞いてから1年ほど時間をかけて、最終的に京都大学と秋田大学の研究成果を合わせてカーブアウトに決まった形です。アルファナビファーマの登記をしたのは2019年1月ですが、外部からの投資を受けられるのが決まったのは2019年4月です。私も林も、2019年3月31日までは大日本住友製薬の社員のままでした。

小山田義博 代表取締役

もともと独立を考えたことはありましたか。

小山田 国内では同様の例が少ないので、ベンチャーの存在自体もあまり意識していませんでした。国内のバイオベンチャーを見ても、製薬会社からスピンアウトやカーブアウトする例は非常に少ないからです。ほとんどが大学発のベンチャーです。先生方は現職と兼務する形で、新会社に参画するという例が多いと思います。

カーブアウトの話に乗ってみようと思ったのはなぜですか。

小山田 ANP-230に対する思い入れですね。自分たちがそれぞれプロジェクトリーダーとして研究や開発を進めてきた化合物ですし、この化合物の特徴やポテンシャルを一番知っているのが私たちです。医薬品の成功確率は低いですが、ANP-230だったら上市できるのではないかという強い思いがありました。
研究テーマには2006年ごろからかかわってきました。その後、研究テーマを推進する中でANP-230を見出しました。自ら実験系の構築に携わり、動物モデルでの評価や電気生理学実験で評価を行ってきました。大日本住友製薬に入社してから数十テーマにかかわったと思いますが、そのなかでもトップ3に入る有望な化合物だと考えています。

林 私もこの化合物に非常に魅力を感じており、少しでも前に進めたいという思いが強かったです。設立に向けて各方面と話しているなかで、思いのほかベンチャーキャピタルが興味を持ってくれました。化合物は大日本住友製薬が持っている、資金はベンチャーキャピタルが出してくれそうだ。では次に人はどうするという話になりました。その時、私や小山田が手伝える部分があるのではないかと思い、賭けてみようということになりました。

林洋次 取締役

標的を絞っているので副作用が起こりにくい

ANP-230の優れた点を教えてください。

小山田 ANP-230の標的は、痛みの神経伝達にかかわるナトリウムチャネル(Nav)と呼ばれるたんぱく質です。一番優れている点は、末梢神経に存在するNavだけを選択的に阻害することです。これによって、いままで実現できなかった経口剤の可能性が出てきました。
Navは、ヒトの脳にも心臓にも末梢神経にも発現しています。いまはNav1.1からNav1.9まで約10種類の存在が知られており、発現分布も明らかになっています。脳にあるNavから末梢神経にあるNavまですべてを阻害するような治療薬は、これまでにもありました。しかし、心臓に発現するNavを阻害してしまうと、徐脈や不整脈など死に繋がるような副作用が起こってしまいます。また、脳に発現するNavを阻害するとめまいやふらつきなどの副作用が生じます。つまり、安全性に富んだ全身性の飲み薬は存在しないのです。

フェーズIの臨床試験をすでに終えていますね。

小山田 大日本住友製薬においてグローバルレベルでのフェーズIを終えています。2014年に米国とEUで、2016年に日本でそれぞれ完了しました。健康成人200例ほどで安全性が確認されており、心臓や中枢系の副作用が出ないことを確認しています。安全性が高く、神経障害性の痛みに対して優れた効果を示す薬になる可能性が高いと言えます。

アルファナビファーマを設立してからの取り組みは。

小山田 大日本住友製薬では、糖尿病性の神経障害性疼痛などを対象に大きな市場を狙っていました。そのまま臨床試験を進めるなら、上市までに数十億円規模の多額の予算が必要だったでしょう。アルファナビファーマではそれだけの予算は確保できません。対策を考えていたときに、ちょうど京都iCAPの仲介で小児四肢疼痛発作症と呼ばれる疾患に出会いました。小児四肢疼痛発作症は京都大学医学研究科の小泉昭夫名誉教授(アルファナビファーマの科学技術顧問)のグループと、秋田大学医学系研究科の高橋勉教授のグループの両者が共同で発見した新しい疼痛疾患です。この病気の主たる原因はNav1.9の変異による神経の過剰興奮でした。神経の過剰興奮を引き起こしているNav1.9をANP-230がブロックすることで、痛みをやわらげることができるかもしれないという発想です。ANP-230は末梢神経にあるNav1.7、Nav1.8、Nav1.9の機能を選択的に強く阻害します。
小児四肢疼痛発作症は希少疾患ですので、臨床試験に必要な被験者は数十名ぐらいになると考えました。これならベンチャーでも、ぎりぎり対応できる規模です。また、Nav1.9変異によって生じる神経の過剰興奮が原因と考えられる小児四肢疼痛発作症を対象にNav1.9の阻害活性を持つANP-230の臨床試験を実施するということは、ANP-230の作用機序を証明するためにも適した臨床試験だと考えています。

ANP-230の特徴

フェーズIIはどんな状況ですか。

小山田 2020年11月に医薬品医療機器総合機構(PMDA)に対してフェーズII臨床試験の申請を提出し、受理されました。2021年5月に最初の患者登録を開始し、臨床試験が進捗しているところです。ただし、コロナ禍で患者さんの来院回数が減っており、十分な被験者数を確保できるか心配しています。2023年夏明けぐらいに薬効を確認するのが目標です。それが実現できれば、小児四肢疼痛発作症を対象としたフェーズIII、並びに対象疾患の適応拡大を目指します。私たちのゴールは、ANP-230を痛みに苦しむ世界中の患者さんに届けること、末梢性神経障害性の疼痛全般に広く使われることです。小児四肢疼痛発作症で薬効を確認するのはあくまで入り口です。

ANP-231についても教えてください。

 有効成分としてANP-230と同じ化合物を使用した別製剤の展開も考えていて、その一つが経皮吸収剤です。その経皮吸収剤をANP-231と呼んでいます。いま複数の会社とMTA(試料提供契約)を締結して、開発の可能性について検討してもらっています。
最終的には、どこかの会社と共同開発という形で進めたいと考えています。高齢者や幼い子供さんたちのなかには、飲み薬の服用が難しい方もいます。経皮吸収剤ならそういう患者さんでも容易に使用してもらえるでしょう。

自分たちの判断だけで迅速に進められる

今後、起業する人に伝えたいことはありますか。

小山田 良い面と悪い面の両面があります。良い面は、自分たちの判断で迅速に研究開発が進められることです。大きな会社ですと、セクションごとに分かれていますので、ここまで来たら次の部門に引き継ぐという流れだと思います。また、社内手続きにも時間を要します。ベンチャーではそれらがありませんし、自分たちで判断できるので非常にやりやすいです。悪い面は、運転資金が十分ではない中で、研究開発と人材採用を並行して行うことの難しさがあげられます。臨床試験が思うように進まないなど予期せぬことが起こると採用のタイミングもズレますので人員計画には何かと苦労しています。

 以前は、自分が担当する研究やプロジェクトだけを見ていれば済みました。今はすべて自分たちでやらないといけないし、すべて自分たちで判断しないといけないことが非常に多いです。一方で今はANP-230に集中してストラテジーを考え、アプローチの仕方を考え、それに向けて進めていける。非常にやりがいもあるしおもしろい部分だと思います。

最後に、京都iCAPからのどんなサポートが役立っていますか。

小山田 京都iCAPは当初の資本政策作成から先生方への仲介などを担当してくれました。会社設立後も、将来を見据えたライセンス活動のためにいろいろな企業を紹介してくれたり、相談に乗ってくれています。京都iCAPが派遣している社外取締役とは、週1、2回ぐらいの頻度で話をしています。

この記事は、京都iCAPのウェブサイトに掲載されたものです

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