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人と組織のミスマッチを解消、社会全体の適材適所を目指す

株式会社ミツカリ

社会心理学や情報学に裏打ちされた組織分析サービスです。社内コミュニケーションをスムーズにし、離職を抑えるなど数値に現れる効果が出ます。これに加え、「〇〇さんと似ている」などの分析結果を見るのがとても楽しいことが特徴です。
ミツカリの隠れた魅力は表社長のお人柄です。懐が深くて正直で楽天的な戦略家。人を惹き付ける不思議な魅力があります。表さんはアントレプレナーの理想形の一つなのだろうと感じています。

京都大学イノベーションキャピタル株式会社 投資担当者より

会社や部署の仲間と性格や価値観が合わない、自分が活躍できる場所に配属されない――。会社の人間関係に悩んだり、スキル以外のミスマッチで退職したりする人は多い。こうした課題を解決し、社会全体の適材適所を目指すというミッションを掲げ、2015年に創業した株式会社ミツカリ(創業時社名:ミライセルフ)。同社が提供するミツカリ適性検査は、性格や人柄、社風などを分析し、人と組織の相性を可視化。結果を基に適材適所の実現や離職率の低減、さらには会社・部門のパフォーマンス向上などに役立てられるという。創業代表の表孝憲氏は、高収入だった外資系証券会社の優秀営業マンから、ビジネススクール留学を経て起業した異色の経歴を持つ。一見、畑違いと思われる領域で起業した経緯や創業7年間に経験した困難な状況をどう乗り越えてきたのか聞いた。(聞き手:増田克善 2022年6月取材)

採用面接官として痛感、人物評価と業務のミスマッチ

外資系証券会社、海外留学を経て起業したとお聞きしています。起業までの経緯を教えて下さい。

京都大学法学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券株式会社に就職し、債券統括本部に7年間勤務していました。入社半年後から採用面接官としても従事するようになり、採用リーダーとして多くの学生と毎週のように、面接してきました。時間、労力とも大変でしたが、やり甲斐を持って取り組んでいました。この経験から、採用を含めた人事領域に興味を持ったことが、現在の事業に至るきっかけとも言えます。

そのとき感じたのは、面接官として自分が評価した点数と採用後の活躍の相関分析をしたところほとんど相関性がなく、自分の仕事が徒労に過ぎないということでした。的確な人物評価をできない人間が面接を行っていることへの疑問と、自分の評価は正しいと思ったところで、その人材と会社や業務とのミスマッチは避けられないことを痛感しました。世の中で適材適所と言いつつも、実はミスマッチは起こっているのだろうとわかってきました。今、振り返ると、そうした社会の中で起きているミスマッチを解決することが現在の事業への端緒と言えます。
元々、学生時代の部活生活を含め、人と組織の出会いに興味があったし、就職後も人のキャリア相談などに多くの時間を費やしてきたと思います。この領域こそが、自分が突き詰めてみたい領域だと気付き、カリフォルニア大学バークレー校ハースビジネススクールに2年間留学したわけです。人事なども含まれるリーダーシップ論組織心理学を中心とした授業をとり、経営学修士(MBA)を取得しました。

代表取締役社長CEOの表孝憲氏

留学後、実際に起業を決断したのは、どのような経緯だったのでしょうか。

ビジネススクール卒業前に帰国した際に、10社ほどのベンチャーキャピタルを回ってみました。友人のエンジニアと開発した性格診断の結果とLinkedIn(ビジネス特化型SNS)のプロファイルを用いて、キャリア相談できる人を紹介するアプリと、人や組織とのマッチングサービスを事業アイデアとしてプレゼンして回ったのです。ビジネスモデルについて多くの指摘を受けたので、翌日には資料を作って再びピッチをすることを続けたら、『面白そうなアイデアだから投資してもいい』という申し出があり、真剣に起業を考えたというのが実状です。

とは言え、実際に決断するとなると、資金繰りなど不安は大きくなるばかり。私一人の生活ならピザだけ食べて頑張ることもできるでしょうが、証券会社勤務時代に結婚しており、妻と子供の生活を維持しなくてはいけません。妻と二人で居酒屋に行き、起業する考えを打ち明けたところ、爆笑して『やりたい ならやったら』と呆れ気味に言われました(笑)。外資系証券会社の退職、留学、次は起業と大きな転機ばかりで、心配をかけてきたので当然ですよね。正直、妻の賛成と協力がなければ思い留まったと思います。

サービスの訴求ポイントを明確化して再出発

2015年5月にミライセルフという社名で創業し、2019年に社名変更して現在に至るわけですが、大きな壁、困難というのはありましたか。

2016年2月に適性検査アプリをリリースして「ミツカリ」サービスを開始しましたが、最初のマネタイズは転職市場にフォーカスし、性格判断によって採用を支援するマッチングサービスを開始しました。それまでに面識があった会社に営業し、社員に適性検査を受検してもらい、自社の人材特性や社風を可視化することによって、将来的に転職応募者を送り込むという考えでした。実際に利用して費用も払うという会社もいくつか出てきたので、利益を出せるなら先に適性検査として売った方がいいのではと考え、販売も始めました。

ところが、なかなか導入は広がらない。どのような課題解決に集中していくのかの整理のレベルが甘く、ビジネスとしての方向性が固め切れていませんでした。適性検査で人や組織の性格が見える、相性マッチングができるといいながら、どういう課題を解決しようとするのか明確に示せていなかったのです。

2017年の正月にもかかわらず、急遽ミーティングを行い、フォーカスすべき課題を明確にすることに集中しました。離職を減らすのか、組織と社員のエンゲージメントを高めるのか、あるいは会社・部署の生産性を高めるのかと3段階くらいの訴求ポイントがあるだろうと考え、まずは離職の低減をターゲットにすることにしました。もちろん、顧客企業が増えていけば、それに伴い課題も変わるし、どこに価値があるサービスとするのか整理し続けることが重要だと思っています。

結果的に転職サービスは閉じ、そのために採用した社員も退職するなど体制の縮小もありました。それを機に社名もサービス名と同じ「ミツカリ」に変更しました。

また、創業時からの共同代表の離脱による経営体制の見直しも経験しました。“スタートアップあるある”とでも言える、スタートアップ像に対する思惑の違いからです。我々のサービスは企業にとって価値があるものの、どちらかと言えば“nice to have”(あった方がよい)寄りのサービスです。そのため、じわじわとしか伸びない世界だとわかりました。ただ、私の力不足もありますが、共同代表はスタートアップの成長スピードを求めていたと考えています。単に儲かりそうという感触だけでビジネスの方向性を決めることの危険性を学びました。

社員同士・応募者との相性をスコア化、ミツカリ適性検査サービス

ミツカリサービスの具体的内容を教えてください。

ミツカリサービスは、一人ひとりの性格や相性を理解・分析し、最終的には個と組織の力を最大化することを目的としています。そのベースとなるのがミツカリ適性検査で、72項目の質問に答えることにより、会社・組織のカルチャーなどを見える化します。ベーシックプランでは社員の登録・受検・諸費用は無料で利用でき、応募者が面接の際などに受検した場合に受検者数によって課金されます。応募者と社員とのマッチングを見て、在職社員の誰に近い性格なのか、どの部門に適しているのかの判断材料となります。ただ、このプランでは社員の受検結果はすべて見ることはできず、社員と社員の比較などはできません。フル機能を利用する場合は、エンタープライズプラン(年間契約)に移行してもらいます。

サービスを利用する目的は、会社によって様々です。多くは応募者と社長の性格のマッチングや配属予定の部長との相性などを把握し、応募者が働きやすく活躍できる環境を会社側が考えるベースにするといった利用です。あるいは、在職社員を活躍できそうな部署に配属する仕組みづくりとして利用する会社もあります。

従来の適性検査との大きな違いは、在職社員の受検によって会社のデータが存在することで、応募者との比較がしやすい点にあります。ただし、採用の足切りツールのような使い方ではなく、採用や配属のミスマッチをなくして離職率の低下をもたらす、勘や経験に頼っていた社内コミュニケーションを改善するといった使い方を可能にします。

適性検査受検者の分析結果画面イメージ。この画面では回答者に適したコミュニケーション方法がわかる。このほかに、性格や価値観、ソーシャルタイプ、人材タイプなどの分析が可能だ。在職社員が受検することで、組織としての特長も把握することができる。

現在はミツカリ適性検査ツールの提供に加え、顧客各社の課題や意向を把握し、ツールをどう使うか支援するコンサルティングサービスも提供しています。それにより、ツールの価値を高めることが可能になります。

現在、ミツカリ適性検査の利用社数は約4000社、受験者数は26万1000人を超えています。産業別ではIT・Web系が25%と多く、製造業、人材業界が共に10数%で、ユーザー規模は社員数50人以下が50%ほどですが、1000人以上の会社も15%もあるなど偏りなく利用頂いています。

最後に、起業を志す方へのメッセージをお願いします。

誰しも掘り下げて考えると、この領域なら一生興味を持ち続けることができるかもと思うことがあると思います。私自身がそうであったように、突き詰めて考え、明確にしていく先に仕事として成立させることができると思えたら、起業という道もあるのではないでしょうか。“起業ありき”ではなく、自分がやり続けたいものが何かを明確にすることが前提だと考えています。

この記事は、京都iCAPのウェブサイトに掲載されたものです

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