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藻類の可能性を追求、藻類開発プラットフォームの構築を目指す

株式会社アルガルバイオ

微生物を活用して様々な有用物質を生産するバイオファウンダリーは、ESGの観点から今最も注目を集めている新規技術の1つです。アルガルバイオはその中でも藻類バイオファウンダリー企業を目指しています。創業研究者で初代社長だった竹下さんは、以前から研究開発に専念したいという意向をお持ちでした。しかし、実際にそれを実現して、代表取締役の座をきっぱりと木村さんに渡したときは驚きました。木村・竹下体制により、今やアルガルバイオは成長曲線に乗りつつあります。

京都大学イノベーションキャピタル株式会社 投資担当者より

食品や化粧品の機能性成分、代替たんぱく質、バイオ燃料など様々な分野で可能性を秘めている藻類。数十万種存在すると言われる藻類だが、食品やバイオ燃料など産業化が進められているのは約30種だという。その藻類の可能性を「カタチ」にするというミッションを掲げ2018年に創業したのが、東大発ベンチャーのアルガルバイオだ。大学の研究資産を引き継いだ多様な藻類株を基に、独自の「バイオファウンダリー型藻類開発プラットフォーム」を構築し、事業参入する企業への技術指導や藻類の受託研究などを行っている。創業者である取締役CSO(Chief Scientific Officer)の竹下毅氏と2021年に代表取締役社長兼CEOに就任した木村周氏に、起業の経緯や事業モデル、藻類ビジネスの将来像を聞いた。(聞き手:増田克善 2023年1月取材)

藻類の持つ可能性を追求、世に出すため自ら起業

アルガルバイオ設立までの経緯と動機を教えてください。

竹下 大学、大学院では応用化学を専攻していましたが、バイオ分野の研究に進みたいとの思いを抱くようになり、東京大学大学院を受験し直して生物に近い研究ができるようになりました。その頃、エネルギー需給の問題からバイオエネルギーが注目され始め、専攻してきた化学と生物の知識を活かせないかと考え、東京大学大学院新領域創成科学研究科 植物生存システム分野の河野重行教授(現東京大学名誉教授)の研究室に入りました。そこで藻類に初めて出合い、バイオ燃料についての研究を進める中で、藻類が非常に可能性のある生物であることを確信しました。

研究の過程で、藻類の1種であるクロレラに有用物質であるカロテノイドが多量に含まれていることがわかり、そこを起点に様々な藻類株と培養条件を検討して七色クロレラを発見しました。その培養・育種技術を経て2本の特許に発明者として携わる機会を得たことが、起業を考えたきっかけです。これまでの研究成果を企業に持ち込んで研究を継続することは難しいだろうという考えがあった一方、大学に残って研究を続けることはできても事業には結びつかないと思っていました。ベンチャーという場で研究を続けながら、高付加価値物質を生み出せる藻類を世に出していくことを事業にできればとの思いでベンチャーを立ち上げました。

特許取得に関わる研究で共同発明者として尽力いただいた京都大学大学院人間・環境学研究科の宮下英明教授からも起業を後押しされ、京都iCAPの投資も受けられました。宮下先生には現在も技術アドバイザーに就いていただいています。

取締役CSO(Founder) 竹下毅氏

木村さんは大手商社からの転身と伺っていますが、ご経歴とベンチャーに参画した動機をお聞かせください。

木村 三井物産では、「食と農」というテーマでバリューチェーンを通して、世界人口100億人の時代に向けた食の安定供給をミッションとして立ち上げた部署に5年ほどいました。また、2015年からは、よりサスティナブルな食の供給を達成していく必要があることから、フードテック分野のイノベーションへの投資事業に関わりました。投資先の1つに代替たんぱく質事業があり、藻類の活用も投資側から見ていました。その経験がアルガルバイオに関心を持つきっかけにもなりました。

そのフードテックベンチャーのメンバーは、ビジネスがどこまで花開くかわからない中でリスクを抱えながらも、信念を持って新しい世界を作っていこうと日々奮闘していました。その姿が非常に印象的で、羨ましくも感じました。三井物産の中にいても同じような意気込みで挑戦できるかもしれませんが、事業創出に対して自分自身をより直接的にインパクトを与えていくためには、ベンチャーの現場に出ていかないと実現できないだろうと感じることがありました。また、彼らのベンチャーが早いスピード感で成長しIPOを達成したことを目の当たりにして、藻類の可能性を身近に感じるとともに、産業化が想像以上に早く進展するのではと思ったことが転身を後押ししました。

代表取締役社長CEO 木村周氏

起業を決心してから会社設立までどのような経過をたどり、そこではどのようなハードルがありましたか。

竹下 起業や知的財産に関する学内セミナーなどで情報収集する中で、技術移転関連事業者に出資する東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)を紹介され、稚拙ながらも初めて起業に向けた計画書を作成しました。また、科学技術振興機構(JST)の大学発新産業創出プログラム(START)に採択され、2年間にわたり市場調査や仮説・検証などを実施。プログラムの終了と時期を同じくして河野先生の退職にともない研究室が閉鎖になりましたが、さらに1年間、UTECから資金援助を受けながら研究を続け、起業準備を進めました。研究室の閉鎖を機に起業という考えもありましたが、機が熟していなかったと感じています。UTECが1年間の研究支援した背景には、いま振り返ると「大学の延長で研究するのではなく、事業をつくっていかなければならない」ことを我々に意識させるための1年だったのではないかと思っています。

いざ会社設立という段階になると、会社組織に属したこともなく、どうやって会社をつくったらいいかわかりませんでした。研究所を開設している東大柏ベンチャープラザ(中小機構)の当時のインキュベーションマネジャーに相談し、公認会計士や行政書士の紹介を受けるなどして1カ月ほどで設立できました。昨今、多くの起業支援プログラムがありますが、そのほとんどが起業後の支援であって、それ以前の会社の具体的な作り方を教えてくれる仕組みがないことを実感しました。

共同開発モデルと自社開発モデルの両輪を確立

創業3年後の2021年に代表取締役社長を変わられましたが、どのような経緯だったのですか。

竹下 創業後も私自身は研究を続けていきたいと思う一方、事業を成立させ収益を上げなければというプレッシャーを受けていました。企業研究者などと共同で研究しながらサービスを提供することはできるでしょうが、モノを販売して事業化することは経験がなく、やはり専門家に委ねるべきだと思うようになりました。また、2019年末に京都iCAPなどから投資を受けましたが、投資要件の中に経営者候補を募集し、在籍させることがありました。100人以上の候補者と会い、2020年夏に木村をCOOとして採用し、翌年に代表取締役社長CEO就任を決定しました。

木村 応募の際に経営者を見据えた募集であることを知りませんでした。竹下が研究者と経営の二足のわらじで首が回らないから、ビジネス面を見て欲しいという話で入社したのが実状。実際に入社してみると、確かに竹下が首の回らない状態に見えました。まず、組織の課題を可視化するところから始めました。CEO就任を要請されたときは正直、驚きました。竹下や投資家と話をする中で、藻類の可能性を産業化していく過程で会社組織のフェーズも変化していく必要があると考え、キャリアを活かして尽力したいと引き受けました。

アルガルバイオの技術、事業モデルの特徴や強みを教えてください。

竹下 最大の特徴であり強みは、大学の研究資産を引き継いだ多様な藻類株を保有していることです。自然環境に存在する野生株をはじめ、大学での育種(品種改良)で作出された特徴的な株、社内で独自に確立した株など、様々な特徴を有する「藻類ライブラリー」です。クロレラ類をはじめ多数の藻類株の中から用途や目的に応じて最適な藻類株を選択(スクリーニング)、培養する技術があります。

事業モデルは、共同開発モデルと自社開発モデルの両輪の確立です。共同開発モデルでは、顧客企業が例えば健康食品やサプリメント事業を進める中で藻類を活用して事業化を支援します。用途や目的生産物に合った藻類株を選び出し、製品に結びつけていくマーケットイン型のビジネスモデルです。一方、自社開発モデルでは、藻類サプリメントなどの事業化に取り組んでいます。藻類活用の裾野を広げて藻類が活躍する社会をつくるというのが共同開発モデルの目的であり、自社開発モデルでは藻類の可能性や藻類の持つポテンシャルを認識してもらいたいと考えています。

木村 共同開発モデルの良さは、各分野の製品事業化のスペシャリストとタッグを組むことで、お互いの強みを持ち寄って藻類の産業化を推進できること。自社開発モデルは我々の意思とスピード感で藻類の可能性を形にしていくことができる点です。共同開発ビジネスは秘密保持契約もあり、我々の具体的なコアコンピタンスや成果を外に向かってアピールしにくいため、自社開発モデルも当社にとって不可欠な事業モデルと考えています。

Clean Technology Lab+に設置された1000Lチューブ式バイオリアクター。
光を照射したガラス管の中を藻類が流れ培養される

社会のあらゆるところで藻類が活用される世界に

藻類ビジネスの将来的な展望をお聞かせください。

木村 私たちは石油や天然ガスなどの化成品に囲まれて生活しています。将来的に目指したい姿は、生活や社会インフラのあらゆるところに藻類が活用されている世界を築いていくことです。共同開発モデルと自社開発モデルの2つのビジネスモデルを両輪として、少量で付加価値の高い機能性食品や化粧品分野、次に食糧分野、そして最終的にバイオ燃料やバイオプラスチックなど、エネルギー・環境・素材の領域に向け藻類の活躍の場を拡大していく計画です。アルガルバイオが、その実現のための藻類開発プラットフォーマーになることを目指しています。

起業を志す人へメッセージをお願いします。

竹下 私は植物生存システム分野という理学系の研究室を母体として起業しました。植物や動物など生物分野の研究者の研究成果を活かした起業が、研究者の1つのキャリアパスにできないかと考えています。大学院生やポストドクターの方々が、事業化を目指しながら研究を発展させるという方法論もあっていいし、チャレンジする方が現れてほしいと思います。

木村 米国で仕事をした経験から、日本では圧倒的に起業家精神が育っていないと感じます。ベンチャーをサポートする仕組みが充実しても、日本人がもっと起業家精神を持たないと意味がない。研究者出身、あるいは私のように大企業からの転身など、どういう形であれ、起業を一世一代の決断のような捉え方をせず、語弊があるかもしれませんが、カジュアルに挑戦してもらいたいと思います。

この記事は、京都iCAPのウェブサイトに掲載されたものです

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