topics
”地上の太陽”なるエネルギーで持続可能な社会を
地上に太陽を作ります。1914年(大正3年)に京都帝国大学工学部に設置された中央実験所にルーツを持つエネルギー理工学研究所発のスタートアップです。各種報道でも注目される日本初の核融合ベンチャーで、世界的な脱炭素の潮流を受けて元気に成長中。エンジニアを中心に積極採用しています。
京都大学イノベーションキャピタル株式会社 投資担当者より
太陽が光り輝いてエネルギーを発生させている原理である「核融合」。これを発電に活用しようとしているのが、「核融合発電」である。核融合発電では、原子力発電で利用している「核分裂」とは違い、高レベル放射性廃棄物が発生しない。二酸化炭素も発生せず、少量の燃料から膨大なエネルギーを得られるため、“地上の太陽”となる新しいクリーンエネルギーとして注目されている。そんな核融合発電で用いる主要機器の設計などを手掛けるのが、京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)の支援を受けて2019年10月に設立された京都フュージョニアリングである。同社が手掛ける事業や核融合発電の実現で描く未来像をCo-founder&CEOの長尾昂氏とCo-founder&チーフフュージョニアの小西哲之氏(京都大学エネルギー理工学研究所教授)に聞いた。
(聞き手:伊藤瑳恵、2020年11月取材)
ベンチャー企業だからできる挑戦
長尾さんが起業に至った経緯を教えてください。
長尾- 子供の時から経営者になりたいという思いを抱きながら、大学卒業後はコンサルティング会社やベンチャー企業に勤めていました。ベンチャー企業では、特に経営戦略や新規事業等多くの業務に携わることができ、詳細は省きますが自分自身で情熱を持って色々とやり切ったという達成感があった。そんな時、更に自分の殻を破って強制的な変化を促すために、長年の夢だった経営者への一歩として京都iCAPが運営する起業家候補クラブ「ECC-iCAP※」に会員登録をしました。
小西先生のご研究に関心を持った理由は?
長尾- 京都iCAP主催のイベントで、京都大学の4人の先生のシーズについて話を伺える機会がありました。そのうち、一番“ぶっ飛んでいるな”と思い、惹かれたのが小西先生のご研究でした(笑)。
小西先生が会社の立ち上げを決意されたのはなぜですか。
小西- 一番の理由は、やってみたかったからです。大学の研究は、実験をしてデータを取り、論文を書けば終わってしまう。実際に使えるものは、それを100年続けてもできません。しかし、核融合の研究をしていると、「使えるものを作りたい」という思いが強くなっていきました。また、近年は、リスクを取って技術を革新する力がどんどん失われてきていることを危惧していました。1980~1990年代に盛んにおこなわれていた「最高性能を求めて新しいものを作る」という動きが止まっているのです。今の時代、そうしたことに再び挑戦できるのはベンチャー企業という形態だろうと思っていたところ、京都iCAPに声をかけてもらい、起業を決意しました。
ハイリスクハイリターンの挑戦が可能な環境を整えられたのですね。
小西- さらにもう一つ理由があります。研究室には、核融合の研究にやる気のある学生が集まってくれるのに、就職先がないというジレンマがあった。企業や研究所でも、若い時に斬新なアイデアを持って活躍していた技術者に役職がつき、研究現場から離れている。これでは、若い世代の行く先がなく、技術や経験が次の世代に伝わりません。ベンチャー企業を立ち上げることで、こうした現状に風穴を開けられる場も作りたかったのです。
長尾- かつては国がリスクをとって技術開発を推進してきましたが、今は時代が変わっています。欧米では、ベンチャー企業がリスクを取って技術開発をし、ベンチャー同士で競い合った結果、技術力のある一社が勝ち抜き、それを大手企業や公的研究機関が採用する、つまりイノベーション・リスクを流動化させる流れになってきている。そういった意味では、弊社がやろうとしていることは時代に即していると考えます。
核融合発電における“ジーパンとツルハシ”を提供
事業内容について教えてください。
長尾- 太陽がエネルギーを発生させている原理である核融合を地上での発電に応用しようとしているのが核融合発電の取り組みです。日本や欧米、ロシアなどが、核融合発電の実現を目指した国際協力プロジェクト「ITER」を35年前から始動させるなど、世界的に注目されています。核融合発電では、燃料の温度を約2億度まで上げて、燃料をプラズマ状態にすることで、原子核と原子核をぶつけて核融合反応を起こします。ここで発生した中性子というエネルギー粒子を壁にぶつけることによって熱を取り出すことができるのです。弊社は、核融合炉の中でも、「ブランケット」と呼ばれる熱を取り出す装置についての技術を持っています。このほか、核融合の過程で発生するヘリウムを排気する「ダイバータ」という装置や、プラズマを2億度まで上げるための「ジャイロトロン」という加熱装置の技術も開発しています。
核融合炉の主要機器を提供しようとしているのですね。
長尾- 民間企業へ機器提供をしようと思っています。実は、ITERとは別に、新しい核融合炉を作りたいと考えるスタートアップが世界に30~40社存在します。この中には、確立した技術を持って大幅に資金調達に成功している会社が複数あり、米Googleなどから700億円超の資金調達に成功した企業もあるほどです。しかし、こうした会社はプラズマ核融合反応を起こすための技術は持っていても、核融合炉から熱を取り出す技術は弱い。そこで、私たちの技術が提供できると考えています。例えるならば、ゴールドラッシュで誰が金を掘り当てるかは分からないが、必ずジーパンとツルハシは必要になる。我々は、核融合炉におけるそれらを提供するプレーヤーになるというわけです。特にブランケットとダイバータは、核融合炉が動き出した際には3年で交換が必要なので、継続的な商売が見込めます。
世界で注目される核融合の利点とは?
長尾- 原子力発電と比較すると、高レベル放射性廃棄物が発生しないことに加えて、地震など有事の際に暴走の危険性がないことが挙げられます。核分裂は放っておいても進んでしまう連鎖反応であるのに対し、核融合は2億度の温度が維持できなければ反応が勝手に止まるのです。つまり、メルトダウンの恐れがありません。
小西- また、核融合は発電以外にも活用できます。例えば、植物などのバイオマスを育て、核融合由来の豊富なエネルギーで蒸し上げることで、空気中の二酸化炭素を固体のC(炭素)として固定し、O2(酸素)とH2(水素)を取り出すことができる。これまでに人類が空気中に放出した長年の負債(二酸化炭素)を、核融合によって元に戻すこともできるというわけです。
原子力関係の技術者や企業のノウハウも活用
国内の原子炉新設が困難で、原子力関係の仕事をする技術者が散逸する恐れがある中、ベンチャー企業ならではの切り込み方は考えていますか。
小西- 原子力と核融合は、技術的なベースは同じです。そういう意味では、原子力関係の技術者や企業と協力して、日本のものづくり力を以って世界で突出したものをつくりたいと思っています。
長尾- 原子力業界の技術者が培ってきた能力や経験は核融合にも応用が利くと思っている。弊社では現在、核融合のバックグランドの有無に限らず、一緒に働いてもらえるフュージョニア(技術者)の積極的な採用活動を行っているところです。年齢不問ですので是非応募ください。
起業から現在に至るまで、京都iCAPからどのような支援を受けましたか。
小西- 大学の中には、私のように「自分の研究成果をなんとか世の中の役に立てたい」と思っている人もいますが、会社の立ち上げ方は何も分からない人がほとんどです。そんな中、起業について京都iCAPが一から支援してくれたおかげで、今日に至ることができました。
長尾- 我々の事業は、IT業界に比べれば研究開発に時間もかかりますので、リスクも大きいでしょう。それでも、担当キャピタリストの八木さんには事業について深く理解していただいているので、資金の用途について説明すると「それだけすごいのならやりましょう」と支援していただけるのがありがたいです。また、キャピタリストと弊社の取締役という2つの立場を使い分けて意見をもらえるので、信頼関係の上で成り立つしっかりとした議論ができ、勉強になっています。
起業やベンチャー企業に興味のある人へメッセージをお願いします。
長尾- 私が起業を決意したのは、死ぬときにやらなかったことを後悔したくなかったから。自分がチャレンジしないことの方が嫌だった。迷ったときには、この考えを参考にしてもらえたら幸いです。
小西- 最近、全国の学生さんから「起業したと伺いました。核融合の研究がしたいです」という連絡を多数いただいています。そういうやる気のある若い世代のためにも、起業をして良かったと実感しているところです。これまでは、企業への就職やアカデミアに残りポスドクとして働くという道を選ぶことが一般的でしたが、今後は新しい選択肢の一つとして、起業に挑戦することも積極的に勧めていきたいと思っています。「フュージョニア(fusioneer)」は「核融合の工学」だけでなく、「様々な工学を融合させるヒト」という意味も込めた造語です。イノベーションを目指す「フュージョニア」の集団に、ぜひご参加いただきたいと思います。
京大発ベンチャーに興味がある方はこちら