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革新的蓄電技術で持続可能な未来のエネルギー社会を切り拓く

CONNEXX SYSTEMS株式会社

電池と言っても様々な個性があります。たくさん貯められる電池、瞬発力の高い電池、暑くても寒くても安定した力を出す電池。多様な個性を持つ人間の集合が強い社会を作るように(Diversity)、様々な個性ある電池を組み合わせて繋がり合う先にレジリエントな社会が存在するのかもしれません。科学的でちょっと哲学的な電池メーカー、CONNEXXです。

京都大学イノベーションキャピタル株式会社 投資担当者より

私たちは、電気エネルギーを日々、享受することで便利な暮らしを送ることができる。その日々の生活に欠かせない電気は、需要予測に基づいて必要と思われる分だけ発送電し、誤差は発電量によって調整されており、簡単に言うと、「貯めておく」機能がなかった。さらに昨今、地球温暖化への対応が喫緊の課題になっている中、太陽光や風力などの再生可能エネルギー活用の重要性が高まっているが、こうした自然エネルギーは「お天道様」次第で気まぐれに変動するため、より弾力的で大きな調整力が必要となる。
しかし、こうした再生可能エネルギーを分散して貯めておき、ダイナミックに地域内で融通できるなら、近代文明の持続性は格段に向上するだろう。そして、電気エネルギーの備蓄は、自然災害等による大規模停電時にも重要な役割を果たす。
そうしたエネルギーの地産地消によるエネルギー・システムの最適化を行い、クリーンでレジリエントな社会を創ることを究極の目的に次世代蓄電技術、ソリューションの開発を行うのが、CONNEXX SYSTEMS株式会社だ。同社の代表取締役で理学博士の塚本壽さんにお話を伺った。(聞き手:郡 麻江 2022年2月取材)

進化するバッテリー技術をもっと様々な形で社会に役立てたいと、起業を決意

塚本さんは、今まで2つの会社を起業されましたが、社会人としてのスタートからの経緯を教えてください。

1979年に京都大学工学部化学工学科を卒業して、日本電池株式会社(以下、日本電池)に入社しました。日本電池では、小型電池の分野で世界で初めて角型Ni-Cd電池を開発、製造に成功し、この電池がモトローラ携帯電話やソニーのWalkmanに採用されました。ソニーはその頃、カセットサイズのWalkman開発に取り組んでいたのですが、そのフォルムにマッチする電池がなかったんです。開発担当の方がいろいろな電池メーカーを回って、最後に日本電池を訪ねてこられたのですが、とても面白そうな話でので、上司の意向を仰いだ上で、是非、とお引き受けしました。
その後もいろいろありましたが、当時最先端だったリチウムイオン電池の開発、製品化に取り組み、事業的にも大きな成功を収めました。

塚本壽(つかもと ひさし)代表取締役

その後、アメリカに行かれたんですね?その、きっかけは?

リチウムイオン電池分野は、我が国が圧倒的にリードしていましたので、様々な案件が持ち込まれ、様々な方とお会いする機会がありました。そんな中で、米国のメディカル・デバイスメーカーから、ペースメーカー用のインプランタブルバッテリーを作ってほしいという依頼を受けたんですが、当時の状況では、残念ながらお引き受けできませんでした。それがずっと心に残っていて…。日本電池のビジネスとしては難しくても、やっぱり何かできることはあるんじゃないか、もっと様々な形でバッテリーを社会の役に立てることができるんじゃないかと。ある時、一念発起して、声がけしてくれたメディカル・デバイスメーカーのオーナーに会いに渡米しました。結果、彼と意気投合し、出資をいただいて、L. A. にQuallion LLCというバッテリー開発の会社を設立したんです。
Quallionでは、ペースメーカー用のインプランタブルバッテリーを上市した他、医療、宇宙などの分野で特殊小型電池の開発を行い、従業員140人ほどの会社に成長しました。

まさにアメリカンドリーム、大成功をおさめられたのですね。でも、その後、日本に帰国されましたが…。

確かにQuallionの事業はうまくいっていました。ただ、会社が組織としてうまくまわりはじめると、また新しいことにチャレンジしたくなり、個人的にいろいろなアイディアを温めていました。このアイデアが現在のCONNEXX SYSTEMSの出発点と言えると思います。
そんなときです、日本で東日本大震災が起きたのは。来る日も来る日も報道されている母国の凄惨な被害状況に、いても立ってもいられなくて…。どうせ新たに始めるのなら、日本に戻ってやろうと決心したんです。実は、私は起業をすることが持つ重要な意味を、Quallionで実体験していました。会社を設立した場所は、ロサンジェルスの中でも貧困層が多く、犯罪率の高い地域でした。ところが、Quallionやその他のスタートアップ企業が立ち上がり、それなりに規模が大きくなっていくにつれ、目に見えて周囲の犯罪率が減っていったんです。人が罪を犯す主な理由は、仕事がなく家族が食べるものがない、病気になっても病院にいけないというギリギリの状況があるからで、仕事があればわざわざ犯罪を犯す人は極めて少数なのではないかと思いました。もちろん、犯罪の動機はそれだけではないですし、限られたエリアでの話であったかもしれませんが、決して高給ではないQuallion に毎日、毎日、通ってきてくれて夕方には疲れて帰っていく人たちを見ているとそういう実感がひしひしと湧きました。そして「仕事をつくり、雇用を増やす」ことの重要性を強く感じました。当時、日本はすでに長い不況に苦しんでいましたし、そこへきて今度は大震災、原発事故です。仕事がなくなり国が潰れるのではないかと思いました。新しい技術、新しいアイディアを社会に創出したい、という思いもありましたが、これを機に帰国し、微力ながら我が国の雇用創出に貢献したいと考えました。

CONNEXX SYSTEMSが入居している、けいはんなオープンイノベーションセンター(KICK)。健康・医療、エネルギー・ICT、農業、文化・教育などの先進的な研究開発を推進するオープンイノベーション拠点。

アメリカ時代に温めた革新的なアイディア。
その実現を母校、京大があるこの地で目指す

2011年に帰国をされて、もうその年に新たな会社を起業されました。

帰国を思い立ってすぐに、大阪の自宅住所を本店としてCONNEXX SYSTEMS株式会社を設立登記しました。それから1年ほどかけて準備をし、京都にオフィスを確保して帰国、本格的に事業をスタートしました。創業の地を京都にしたのは、京滋エリアには電池関連分野の素晴らしい企業がたくさんありますし、母校の京大もありますので、多くの企業や優秀な研究者と繋がって協力しあえるだろうと考えたからです。
東日本大震災で、エネルギー・インフラの強靭化の必要性を痛感しましたし、今後は再生可能エネルギーを核としたスマートグリッドの構築がますます急がれるということもありましたので、CONNEXX SYSTEMSでは、特にインフラ向けの新たな蓄電技術、蓄電ソリューションの開発を手掛けようと思いました。それが現在、弊社の開発パイプラインとなっているBIND Battery®、HYPER Battery、そして大本命技術として掲げているSHUTTLE Batteryです。

それぞれの電池の特徴をお教えください。

BIND Battery®というのは、種類の異なる電池を組み合わせて1種類では対応できない機能や用途を実現するハイブリッド電池技術です。鉛電池とリチウムイオン電池の組み合わせでは高い安全性と優れた低温特性が特徴です。鉛電池の過充電吸収反応や優れた低温性能とリチウムイオン電池の優れた信頼性とを組み合わせた「いいとこ取り」電池です。
次にHYPER Batteryですが、この電池は圧倒的なエネルギー出し入れ性能が特徴で、短時間に充電を完了させる用途や、バースト出力が必要な用途に向いており、現在はロボットを主なターゲットとしています。既に90秒充電に特徴を持つAGV(無人搬送車)に実装実績があります。将来はチョコチョコ充電自動車や垂直離陸型の電動飛行機への実用を期待しています。
そして、これまで基礎開発に注力してきたSHUTTLE Batteryは、空気と鉄でリチウムイオン電池の何倍ものエネルギー密度を実現する全く新しい革新電池です。主材料が鉄と空気ですから、環境への負荷が少なく、世界中どこでも安価に手に入れることができます。また、構成も非常に簡単なので誰でもどこでも作れるようになると思います。基本的に不燃性の材料で構成されているので極めて安全です。自然エネルギーとSHUTTLE Batteryにより、公平で争いのないエネルギー社会が実現できるのではないかと考えています。

BIND Battery®、HYPER Battery、SHUTTLE Battery、それぞれ素晴らしい特徴を持つ3種類の電池を活用して、どんな未来図を描いておられますか?

情報通信の世界に例えると、BIND Battery®技術を用いた蓄電システムはそれなりの容量と出し入れ速度をもつエネルギーのサーバー、HYPER Batteryはとにかく高速なエネルギー移動を実現させるフラッシュドライブ、SHUTTLE Batteryは(今のところ素早い動きは苦手ですが)超大量のエネルギーを溜め込むことができるデータセンターと捉えてみてください。三つの異なる機能・役割を持つ蓄電デバイスがつながり、互いに連携することで、再エネ発電を最大限活かすことができる高密度かつ柔軟な蓄電ネットワークが構成できると思っています。すなわちインターネットならぬ「PowerNET」を実現できると考えています。PowerNETは強靭で柔軟です。SHUTTLE Batteryの技術開発を終えて元々の動機である災害に強く公平なエネルギー社会の実現、すなわちPowerNETの実現を図りたいです。

PowerNETのイメージ。社会に分散する様々な蓄電池を統一的なネットワーク・アーキテクチャで結ぶことで、一つの大きなエネルギー・ソースとして利用する。(画像提供:CONNEXX SYSTEMS)

日本人に流れる「匠」のDNAを生かして
「PowerNET」という夢をカタチにする

「PowerNET」は、私たちにとっても素晴らしい目標ですね。しかもお話を聞いていると、その実現が間近なものであると実感します。これからの課題としてはどんなものがあるのでしょうか?

「PowerNET」のような電力インフラは弊社だけで実現できるものではありません。弊社は、そこで使われる蓄電デバイスを開発します。最も重要なポイントは、PowerNETと同様な新しい電力ネットワークにおいて蓄電デバイスに求められる仕様を正確に把握することです。この仕様についてキャッチボールできる大学研究グループ、エネルギーネットワークや情報を扱っている企業、行政機関などとの交流が重要と思います。

最後にこれから起業を目指したいと考える人たちにメッセージをお願いします。

壁は、必ず乗り越えられる、これは私の実感です。どんな仕事、業種にしても働いている以上、問題はかならず起きますし、壁にもぶつかります。私も必死で解決策を捻り出しても、すぐに新たな問題が持ち上がるということを何度も経験してきました。もうダメだ!と思った時に、ふと救済策が浮かんだり、仲間の誰かが動いて助けてくれたり、時にはライバルにヒントをもらったり、全て乗り越えてこられました。起業して、もし苦しい時期があっても、絶対にあきらめることはないです。あなたが行くべき場所には必ず行けますから、と伝えたいですね。ただこのような執着を持った開発、起業を継続するためには、「クリエイティブ」でないと難しいとも思います。クリエイティブな活動をしていると感じているときは基本疲れも悩みも感じないです。日本には昔から「匠」という存在がありますよね。研究開発にしても、起業にしても、伝統工芸のモノづくりと同じ、とことん極める、凝視するという態度はクリエイティブな活動といえるのではないかと思います。同じことを繰り返していてもクリエイティブな側面を必ず見出すDNAが日本人には流れていると思います。それを最大の強みにして、これからの原動力にしてほしいですね。
そして、京都大学イノベーションキャピタルさんのような信頼できるベンチャーキャピタルとの関係構築も非常に重要です。弊社もますます、アドバイスとサポートをお願いしなくてはなりません。

この記事は、京都iCAPのウェブサイトに掲載されたものです

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