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2022年12月15日、オンラインイベント「グリーントランスフォーメーションとグリーンイノベーションのWHYとWHAT」が開催されました。

現在、企業が取り組むべき課題として取り上げられることが増えているGX(グリーントランスフォーメーション)について、「名前は聞くけどよくわからない?」「何から手をつければいいんだろう?」「そもそも自社に必要なのか?」など、いまいち内容や取り組み方がわからないという方々に向けておこなわれた今回のオンライントークイベント。主催は、三井住友フィナンシャルグループ、三井住友銀行と京大オリジナルです。

ゲストとして
●アントレプレナーシップの専門家である京都大学経営管理大学院教授の山田仁一郎氏
●SDGsと企業経営・人材育成、サステナブルファイナンス支援などを専門分野に持つ株式会社日本総合研究所創発戦略センターシニアスペシャリストの村上芽氏
●「環境・社会課題解決の「意識」と「機会」を流通させる」ことをテーマに活動するコミュニティ「GREEN×GLOBE Partners(GGP)」の運営に携わる三井住友フィナンシャルグループの山北絵美氏
をお迎えし、司会の京大オリジナル川村氏を含めた4名で約90分に渡りお送りしたトークセッションの模様を少し抜粋させていただきながらレポートいたします。

登壇者の詳しいプロフィールはこちら

そもそもGXとは?——

イベントでは、まず村上氏より、「GXに取り組むとは」ということについて説明がありました。

村上氏「GXとは日本政府が提唱しはじめた言葉です。ひとことで言うと、『カーボンニュートラルと経済成長を同時に達成していこう』というもの。つまり、化石燃料中心の経済、社会の構造を変革し、この変革を経済成長の機会と捉えて、産業競争力の向上と排出削減を一緒に進めていくと言っているわけです」

さらに日本政府としてどういう取り組みがおこなわれているか、説明が続きます。

村上氏「どういう動きがあるかというと、GX企業と産官学が協働する場『GXリーグ』という場がつくられています。これには、すでに500社以上の企業が賛同しています。もう一つが、『GX経済移行債(仮称)』の発行。GXの実現には今後10年間で官民あわせて150兆円超が必要と言われており、それを先導するために日本政府がGX経済移行債(仮称)という国債を発行して投資支援にまわしていくということです。さらに国の取り組みとしては、『グリーンイノベーション基金』というものがあります。これは2020年に立てられたグリーン成長戦略に基づき、NEDOに2兆円の基金を設置し、14の重点分野で研究開発から社会実装に取り組む企業を支援するというものです。日本国内におけるGX関連のアクションとしては現在以上のようなものがあります。」

GXに対する企業の認識は——

こういった流れに対して、一般企業はどのような反応を示しているのでしょう。山北氏がGGPのパートナー会員の皆様に『今後どんなテーマで講演を聴いてみたいか』とアンケートをとったところ、最も多かったのがGXについてであったとのこと。この結果から一定の興味関心を持たれていることがうかがえます。

一方で、

山田氏「2021年度の商工金融リサーチの調査によると、約1万1千社の中小企業を中心に『GXにコミットするつもり、またはコミットしているか』という質問に対して肯定的な回答は確か13〜14%ぐらいで、ちょっと不安でよくわからないと答えた方が半数近くという統計が出ていました。社会的にはそんな認識がほぼほぼリアルなのだろうと理解しています」

というように、まだ前向きに取り組もうとする企業は少ないのが現状のようです。

この理由として村上氏は、

村上氏「本当はカーボンプライシングの議論をもっとスピードを持って進め、それとあわせてGXの議論を進めていかないとダメだと思っています。現状のように、カーボンプライシング自体がいつ始まるか曖昧だと、トランスフォーメーションといってもずいぶん先に魔法の杖があるようで、どの企業様もこれで大丈夫なのかなと感じてしまうのではないでしょうか」

とのご意見。

これまで日本の中小企業の経営者、アントレプレナーの経営者に多くのインタビューをおこなってきた山田氏も、日本の企業家たちはGXというものに対して、『かつての日米構造協議のときのように外圧でルールが変えられて、それに変に乗っかると損をするのではないか、仕掛けた側だけ儲けて自分たちが出し抜かれるのではないか』と猜疑心を持っていると言います。

環境問題における時間軸という課題——

GXの浸透に対する課題として、イベントの中で山田様は以下のような課題を挙げられました。

山田氏「やはり難しいのは時間軸の問題だと思います。たとえば生物学者もよく気候変動問題に批判したりしていますよね。だれもそんなに長い時間軸で検証したことがないんだから根拠(エビデンス)の部分で怪しいんじゃないのかと。エコノミーっていうのはインプットがあって成果があるという一直線でとらえられる問題ですけど、エコロジーは、地球と宇宙の循環的なバランスの問題なので何が正しいとか正しくないかという解は学問的に厳密にはないんですよね。でも私たちが30年とか60年とかの現役の経済活動の中でどういうふうに環境問題に関わっていくかを考えると、少なくとも3世代分ぐらいの物差し(スケール)で理解しないといけない。こういう長い物差しで考えることにコミットできる人は共感できるかもしれないし、そうじゃない人は、『いや今は乗れないな』っていう、その辺の是々非々みたいなものが現状あると思いますね」

これには村上氏も同意見で、

村上氏「時間軸っていうのはキーワードですよね。以前あるトークセッションでお話をしているときに、私が、たとえばカーボンニュートラルなどの話は30年単位の長期的な視点で考えていかないといけないというようなお話をしたところ、たまたまそこに地質学の専門家がいらっしゃって、いやいや地球のことを考えるなら1万年単位で考えるのが基本でしょって言われて(笑)。山田先生も先ほどせめて3世代とおっしゃいましたけど、やっぱり人生100年時代、100年というと3世代とか3巡りくらいですかね、最低でもそのぐらいの軸で考えないといけないというのは、本当にその通りだなと思いました」

と、長期的な視点で考える必要があることをご自身の体験を踏まえて語ってくださいました。

環境意識には表と裏がある——

また、山田氏の発言から、GX浸透に対する課題として、日本人の環境意識におけるある特徴も見えてきます。

山田氏「日本の消費者マインドの話をしていて海外の研究者によく突っ込まれるのは、日本って宮崎アニメに見られるようにスピリチュアルなものや環境に対するリスペクトが強いアニミズムがまだ息づいている国なのに、コンビニなどの商品に代表されるこの過剰包装パッケージ文化は何なんだということ。この矛盾はよく指摘されます」

これに山北氏も、

山北氏「日本はそういうところが多いですよね。頭でわかっていても実際の行動がともなわないというか、『安心と安全は違う』みたいなことってよくありますし。こういう価値観や意識を変えていくことも本質的に必要なところなのかなと感じているところです」

と同調。

環境意識と行動のズレ——

こういった環境意識と行動のズレはどういったところから来るのでしょうか。山田氏は次のように考えているようです。

山田氏「やっぱり人間としての価値観の醸成における学校教育と家庭や社会の間のほころびかなと。つまり学校、特に初等からの教育現場において、自然や社会に対する価値観をホーリスティック(全体観的)に伝えるみたいな、そういうものが足りないんでしょうね。この資本主義ジャングルの中で生き延びるためには偏差値上げてよい学校に行って出世するとよいんだ的な浅い考え方と、世の中とか宇宙とか人類に対する関心やリスペクトがバランスよく学校教育の中で伝え切れていなくて、頭の理屈では「理解」していても骨の部分で上手く意味づけが結びついてないんじゃないですかね」

さらに山田氏は続けます。

山田氏「京大生と議論していても環境配慮の考え方の部分では次世代は強く持っていますよ。あきらかにミレニアムズ(1980 年代から 2000 年初めまでに生まれた若者の世代)のほうが環境意識は高いです。けれどもそれが深いところで主張、具体化への行動になるかというと、それは海外の学生と比べると強い主張になるほど自分の中で一貫した軸になってないんじゃないですかね。だから全体で見たときにはレベルが低いように見えてしまうんだと思います」

これに対し、村上氏と山北氏も日々のワークショップの中で感じていることがあるようです。

村上氏「そうですね、一般的な企業を見ても若い方のほうが知識を持っています。なぜなら学校で小さいころから気候変動やSDGsの勉強をしているから。けれどそれ以上自分でやってみようというのがないですよね。知識だけである程度点数がとれればOKというところで止まってしまっているのかもしれません。そう仕向けてしまう評価軸もよくないし、その物差しで満足してしまうのはもったいないですね。ただ企業の方とワークショップをしてグリーンやサスティナブルについて話し合うと、普段とは違う本音が出てきて、経営者の方が『ウチの若い社員たちはこんなにいろいろ考えていたのか』と驚かれることもよくありますよね」

山北氏「皆さん個人の意識としては持っている人が多いのかなと私も思います。特に我々のワークショップに参加してくださる方がそういうことへの興味が強いっていうこともあるかと思いますが、個人としてはこんなことやってみたいという話はたくさん出てきます。ただそれが所属している組織のビジネスにつながるかというと必ずしもそうではなく、これは山田先生のご専門かもしれませんが組織論とどう関係してくるのかっていうのは私自身すごく興味があります」

環境に対する個人と組織の差——

日本人として環境に対する知識も意識も持っている人は多いというのは、お三方とも同意見のようですが、ではなぜ、それが企業の行動として表れにくいのでしょうか。山北氏もその辺をご自身の課題として持たれているようです。

山北氏「GXの問題については、経営者の方はいろいろ取り組まないといけないという思いがあり、現場の方も個人としては課題意識を持ち、いろんな意見やアイデアも持っていると。なぜそれが事業の軸につながっていかないんでしょう」

これに対し、山田氏の見解は、

山田氏「大企業の社員の方々は、宮仕えでシュッとスーツを着てそこで演じて世界を生き抜いていくのだという割り切りがまずあるわけですよね。その振る舞いにおいて会社の方針に合わせることは当然で、社内のルールが変わったらそれに合わせてやりますよと。しかし、たとえばオーナーシップ100%の中小企業の社長の方々にとっては、これは生き様レベルの選択になります。自分が先祖から受け継いできた、あるいは今目の前にいる社員や自身の子どもとの未来の暮らしを含めて存亡を賭けた意思決定なので、まだそう簡単に確信してコミットできないっていうのは本音だと思うんですよ。そこに違いのラインがあるのかなと思います」

やはり、意識としては持っていても、企業として物差しを変えて舵を大きく切るのはなかなか難しいのかもしれません。

最終的には個々の人生レベルの選択——

この度のイベントに際して事前に募集した質問で、『組織内または身の回りでもGXや脱炭素に関する意識差があって、大企業が取り組めばいいんじゃないか、将来的にエネルギー消費量の少ない労力が主流になるので個人レベルの努力は不要になるんじゃないか』といったご意見も寄せられましたが、これに対して山田氏は、

山田氏「結局アントレプレナーシップ論でいうところの当事者意識とか自分事(じぶんごと)化というところに関わってくる話だと思います。こういう変化とかルールが変わる時って大きな機会なわけですよ。でも中小企業の経営者たちにとってはプレッシャーでもあるわけです。なので、(自分の代では)先送りにしたいとか他人事としてやり過ごしたいというのが実は多くの本音なんですけど、それはそれで一つのあり得る選択肢なんですよね。けれども一方で、次の世代まで考えると受け身にならず主体的にやっていった方が合理的で良いんだろうなというのは頭のどこかで思う部分もあって揺れてもいる。そこからは彼(女)らの人生レベルの選択なので、アントレプレナーシップを発揮してGXに関わってみようというのも重要な選択肢ですが、それをしなきゃダメだという言い方は僕にはできません。2つの「正しいこと」の間のどちらかを選ぶことなんです」

と、あくまで中立な立場で語ってくださいました。

これに対して、企業のサスティナブルな活動支援などに取り組む村上氏は、

村上氏「やっぱり社長さんの話って重いですよね。確かに人生の選択となると簡単には言えませんが、もし迷っておられるんだったら、お孫さんひ孫さんにどう思われたいかというような想像力を持っていただいて、そういう先の視点でも考えていただければと思いますね。私たちとしても、理屈の部分と気持ちの部分両方で納得いただけるような、最低でも損にはならない投資だと考えていただけるようなものを示していかないといけないと思いました」

と、企業の方々の物差しを変えていく難しさと決意を改めて感じておられるようでした。

行動を後押しするヒント——

次に、企業がGX推進に舵を切るきっかけのひとつとして山北氏が例を挙げてくださいました。

山北氏「以前、GXリーグに参加されているある企業様のお話を聞いたのですが、その会社はGXをビジネス機会だと捉えられていました。日用品の会社で、過去に詰め替えパッケージを導入したことで、消費者は安く購入できて、ゴミも減り、物流コストも減ったという、三方よしの成功体験を持っておられたんですよね。そういった経験をお持ちの企業様なので、GXはウチの会社にプラスになるのでやりますと言い切られていました。これはひとつの例ですが、GXなんてウチには関係ないと切り捨ててしまわずに、世の中の流れを上手く利用したら自社のビジネスにもプラスになるんじゃないかっていう思考は大事なんじゃないかなと思います」

また、山田氏のコメントもヒントになりそうです。

山田氏「村上さんの御本を読んでいると、いろんな成功事例があってそれはどんどん増えていってるんだろうなと思いました。あと、社内で現場と経営陣だけで抱え込むと大変だけれども、産官学の協働の場であるGXリーグとか、それこそ京大オリジナルさんもそうだと思いますが、社外のパートナーと出会ってコラボレート(協働)するとか、オープンに考えるっていうのはとても大切かもしれませんね」

GXの何から手をつけて良いのか迷われている企業様は、成功事例から学ぶ、あるいは、自社だけでなく周囲との協働など広い目線で考えていくとよいのかもしれません。

GXにベクトルを合わせていくために——

さらに、企業としてGX推進にベクトルを合わせていくにはどのようなことが必要なのでしょう。山田氏と村上氏の会話から何となく方向性が見えてくる気がします。

山田氏「ひとつは組織内外のパワーの問題。オーストラリア人の共同研究者がよく共同調査をしてデータを睨みながら言っているのが、『日本は現場が優秀なのにトップが煮え切らないから現場が変わっていかない。これはトップの責任だ』ということ。紋切りに聞こえるかもしれませんが、確かにオーストラリアだったら、そこはぐいっとパワーで変えにかかるんだと言っていました。それって日本の組織論からすると合わないとも思うので、これが正解だとは言えませんが、海外から見るとそういうふうに見えているんですよね。やはりトップの関与って決定的なので、このタイミングで投資して、この規模で自分が肝いりで退任までの時間まで勘定に入れてプロジェクト動かすというぐらいトップが関与していけば結果が出やすいんじゃないですかね。その弊害もありますが」

村上氏「そうですね、何となく根っこがつながっている気がする話ですが、日本の企業ってひとつひとつの技術はすごいのに、なぜか自社のその技術が社会にどのような働きかけをしているかという点には関心が薄い。で、そこを見るのは企業のトップの役割かなと思うんですけど、あまりそこに目がいっていないように思います」

山田氏「GXでちゃんと結果が出ている企業のトップは、ちゃんと語り下ろしているというか、あやふやに『弊社の事業はSDGsのこの項目に関連しています』みたいな借りてきた言葉で済ましていないですよね。ちゃんと『我が社のこの技術は社会的にこういう価値があって、長い時間で見るとこういう良いことが起きています』っていうところまできっちりその眼で確かめて、自社の中でストーリーを育てて持っています。それについて先ほどトップのパワープレーみたいな話をしましたが、やっぱりトップ、もしくは役員クラスの人員をアサインして、ちゃんとコミットさせるというふうにすれば実質的な変化ができると思うんですよね」

必要なのは腑に落ちるストーリー——

山田氏から出てきた『語り下ろす』『自社の中のストーリー』というキーワードに対して、山北氏も、

山北氏「最近GGPのサイトでもGXで成功されている注目ベンチャーさんを取り上げさせていただくんですが、そういう経営者の方に共通しているのは自身のバックグランドに『腑に落ちるストーリー』を必ず持っているんですよね。かつ、それが既存の産業を壊すのではなく新しい価値観を生み出していて、そうすると応援しない理由がないので従業員も集まりますし、政府や投資家からも応援いただけて結果的に資金調達も早く進むっていう。そういった能力が必要とされる時代かなと感じますね」

と返答。

山田氏「やっぱり企業としてしっかりしたパーパス(存在意義)というか、ストーリーが流れてないと、回りも共感してくれないし、貸衣装かまがい物みたいになってしまいかねないと。だから中途半端な取り組みだとあまり良い結果は導き出せないということですよね」

山北氏「そうですね、目先のことに惑わされず、本質的にGXという事象が自社にどういうインパクトがあるんだろうか、どこを変えたら一番良い方向に行くんだろうかってことを、経営者ご自身であるとか現場の方自身が腑に落ちるところまで考えて持っていかないと、本質的には何も変わらずに終わってしまうというふうに感じます」

村上氏「結局は『何のためにやるのか』っていうとこですよね」

と、ゲストの皆様のトークから、今後GXに取り組んでいくためのひとつの方向性として、『自分(自社)の中で納得するまで語り下ろす』『腑に落ちるストーリーを描いていく』ことが大切だということが見えてきました。

残り10分のところで視聴者様からの質問への回答、およびゲストの皆様から感想のコメントをいただき、今回のイベントは終了となりました。

『グリーントランスフォーメーションとグリーンイノベーションのWHYとWHAT』というテーマで、繰り広げてきた今回のトークセッション。

このセッションで何か正解を出すというよりも、いろんな角度から自由におこなわれるクロストークの中から、ああそんな考えもあるなと、皆様の中にひとつでもふたつでもGXについて考えるきっかけが残ればとの思いで開催されたトークセッションでしたが、視聴者の皆様の心に新たなヒントや知見は残りましたでしょうか。

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