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次世代エネルギーの主軸となるか?新たな太陽電池への挑戦

株式会社エネコートテクノロジーズ

株式会社エネコートテクノロジーズは次世代薄型太陽電池であるペロブスカイト太陽電池の実用化に取り組んでいます。超軽量でフィルム状にも加工できるペロブスカイト太陽電池は垂直や曲面の壁に設置でき、室内の弱い光でも高い変換効率を維持できるという特長があります。日本で発明されたペロブスカイト太陽電池ですが世界中で開発競争が激化しており、京都iCAPと共にエネコートを支援していただける企業を求めています。

京都大学イノベーションキャピタル株式会社 投資担当者より

現在、広く流通しているシリコン系の太陽電池と比較して、高い変換効率と製造コスト削減を可能にする次世代型のペロブスカイト太陽電池は、次世代のエネルギーを担う主役候補の一つとして、エネルギーや環境、経済などさまざまな視点から注目されている。京都大学や京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)の支援を受けて2018年末に本格的に事業をスタートさせた株式会社エネコートテクノロジーズは、ペロブスカイト太陽電池の研究開発における最前線基地として、次世代太陽電池のさまざまな社会実装化を目指している。同社の取締役兼最高技術責任者(CTO)であり京都大学化学研究所教授の若宮淳志氏と、代表取締役兼最高経営責任者(CEO)の加藤尚哉氏に現在の取り組みについて話を聞いた。(聞き手:郡 麻江、2020年11月取材)

この素晴らしい技術を世に役立てたい!熱い思いがかたちに。

―エネコートテクノロジーズを起業されたきっかけを教えてください。

若宮 私は2013年から、このペロブスカイト太陽電池に関する研究を始めていましたが、世の流れにうまくマッチしたというか、タイミングが非常によかったと思います。この材料にいち早く可能性を感じ、科学技術振興機構(JST)の「さきがけ」の領域研究者の有志を募って、国内初となるペロブスカイト太陽電池の研究プロジェクトを立ち上げました。その後も、JST COIやJST ALCA、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などいくつかの政府系プロジェクトの支援を受けて、ペロブスカイト太陽電池の開発研究に取り組むことができました。

 さらに、京大の学内助成制度である「インキュベーションプログラム」もスタートし、その第1期として採用が決まり、2018年1月にこの会社を設立しました。大学の研究者というのは論文を書いたり、特許を取得したりはするのですが、そこで終わってしまうことが多くて…。でも、私の真の思いとしては“素晴らしい技術を何とか世の中に出したい!”というのがずっとあったんです。しかしながら、資金もないですし、なかなか大学の教員の立場で難しい。でも全面的にサポートをしてくれるということになって、それならば!と起業を決めました。

―起業されるにあたって、苦労されたことは…?

若宮 それはもう、まずは人材確保ですね。まず、最初に、誰が社長をするんだ?という問題に突き当たりましたし(笑)。真っ先に頭の中に浮かんだのが、大学のクラスメートだった加藤さんでした。当時、彼は、高松で不動産関係の仕事をしていまして、その前は国内外の投資銀行で不動産や事業再生関連の仕事でキャリアを積み、ビジネスマンとしてバリバリ仕事をしていたのですが、そこを引き抜いたわけです。我々の技術のことも理解してくれて、経営面でもこんな心強い味方はいないと考えました。

加藤 最初は友達ながら、なんと面白い、ユニークなことを言ってくる人だなあと思いました(笑)。若宮さんは大学の先生でありながら、自分で会社を作りたい、つまり事業化したい、とにかく自分の研究を世に出したいという思いをもともと強く持っていて、そこに私も心惹かれました。ちょうどタイミングよく京都大学グループとして全面的に支援するスキームができたということも聞いたので、これは面白い、やりがいがあるぞと感じました。決め手になったのは、何よりもこのペロブスカイト太陽電池に将来性があるということと、産官学のサポート体制がしっかり整っていることでした。こんなに夢のある研究開発で資金援助がありサポート体制もばっちりでお膳立てが整っているのにやらないのは男がすたる…!(笑)ということで決心しました。今も単身赴任で頑張っていますが、後悔はありませんね。

若宮 それを聞いてちょっとほっとしました(笑)。社長は彼になんとか引き受けてもらってそこはもう万全でしたが、あとの人材確保は本当に大変でした。中途採用も含めて、とにかく大勢の人に会って話をして理解してもらって…。その上で、この会社に入ったものの、やはりうちの仕事に向かない人ももちろんいますから、紆余曲折がありました。でも、ようやく人材も揃って、うまく仕事を回していけるようになりました。

加藤代表取締役(左)と、若宮取締役(右)

夢物語ではない「どこでも電源」の実現

―御社が実用化に取り組んでいるペロブスカイト太陽電池の特徴について教えてください。

若宮 簡単に言いますと、「塗ってつくれる太陽電池」というのがキーワードなんです。現在はシリコンを原料としている太陽電池が主流で、大型のものだとメガソーラーがわかりやすいですよね。ペロブスカイト太陽電池は塗ってつくれるフィルム状のものなので、ペラペラで軽くて曲がるという特性があります。メガソーラーだと重くてかなり面積を使うので広い土地などが必要ですが、軽くて曲がるなら建物の壁に貼ったりカーテンなどにも使えると考えています。またメガソーラーで発電する場合、高照度といって昼間の晴天のように強い光が必要なんですが、ペロブスカイト太陽電池なら低照度、つまり朝夕や曇天時の弱い光でも発電が可能なんです。高照度だと10万ルクスぐらい必要ですが、ペロブスカイト太陽電池なら1000ルクスとか200ルクスなどの非常に弱い光でも発電効率はすごく良いんです。ですから、今後はいろいろなデバイス、たとえばIoTセンサーの電源などにも応用できると考えています。僕は、「どこでもドア」ならぬ、「どこでも電源」って言っているんですけどね(笑)。

従来のシリコン太陽電池とペロブスカイト電池のちがい

―ドラえもんもびっくりですね(笑)。ペロブスカイト太陽電池の活用にはどんなフィールドがあるのでしょうか?

若宮 たとえば計算機などの電源に使われているアモルファスシリコンという素材があるのですが、弊社のペロブスカイト太陽電池の発電効率はアモルファスシリコンの2倍もあることがわかっています。弱い光であっても光エネルギーを効率よく取りこんで電気を発生するので、活用の場は限りなくあると思いますよ。たとえば今は1人の人がモバイルパソコンやスマートフォンなどいろいろなデバイスを持ち歩きますよね。デバイスがどんどん高性能化していくにつれて、電力ももっと必要になるわけです。充電器をいくつも持ち歩くのは重くて大変ですが、ペロブスカイト太陽電池なら薄くて軽量で持ち運びにも便利なので、モバイルバッテリーなどにも向いていますね。

加藤 営業面からいうと、軽い、薄い、曲げられるということを最大の売りに販路の拡大を目指しています。先ほども言いましたが、ビルの壁や内装、カーテンなどの生地、災害用のテントでも自家発電が可能になるし、他には飛行機やドローン、農業用ビニールハウス、IoTセンサー、軽量のメガソーラー、宇宙衛星などさまざまに展開していけると思います。実際に複数のメーカーさんとの共同開発プロジェクトも動いていますし、まさに夢の太陽電池だと自負しています。

若宮 発電フィルムはハサミでチョキチョキ切れちゃいますしね。うまくデザインして腕時計に貼れば、カッコいいウエアラブル・デバイスもできますよ(笑)。

加藤 自由にどんな形にもカットという特色を生かして、現在、自動車メーカーさんでは車の屋根やボディに使うという研究も進んでいます。昼間、車を走らせながら、充電しなくても自分で発電してくれる、ガソリン要らずのソーラーカーなんて夢のようですよね。ある県での実証実験では、1kwの電気を発電すれば35km走れるそうです。一般の人が自家用車として使うのは1日25km程度だそうなので、京都市内を走るぐらいは十分に賄えますよ。

若宮 最新のものでは、5Gの基地局の開発もメーカーさんと共同で行っています。この基地局は成層圏を自動かつ長時間飛行する航空機で、やはり軽量であることがマストです。1台で半径70キロをカバーできるのですが、災害時に地上の基地局が壊れてしまった時や停電していても、自家発電で使えるんです。

加藤 先ほどの災害テントもそうですが、災害時の対策にもさまざまな分野で役立つと思います。産官学で連動して積極的に進めていきたい分野ですね。

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