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「iPS細胞が世界を変える!」という夢の実現に向けて、“起業”という大きな決断へ

株式会社マイオリッジ

治療用の細胞を安く安定的に作る技術は、再生医療の広い普及につながります。丁寧な観察と緻密なエンジニアリングにより、高品質な細胞を安価に大量生産するシステムを作り上げるMyoridgeです。iPSの治療応用のみに留まらない京都大学の総合力が発揮されていますね。細胞も経営者も活きが良いですよ!

京都大学イノベーションキャピタル株式会社 投資担当者より
#08 「iPS細胞が世界を変える!」という夢の実現に向けて、“起業”という大きな決断へ

2006年にiPS細胞が発見されて以来、幹細胞研究の分野は飛躍的に発展している。このiPS細胞を社会実装をするべく、再生医療や創薬技術などの新たなインフラ技術を世の中に送り出すことを目指しているのが、株式会社マイオリッジだ。代表取締役社長CEO牧田直大さんは、22歳という若さでこの会社を起業した。しかし、「起業」とひとことで言っても、様々な壁が立ちはだかる。まず最初の壁となりうるのは、事業を展開するために先立つもの=資金調達だ。その「壁」をどのようにクリアしてきたのか?牧田さんの思いや当時の状況、さらに投資をする側であるベンチャーキャピタル2社の担当者を交えて、様々に語ってもらった。     
(聞き手:郡 麻江、2021年2月取材)

投資の決め手は、やはり「人」。人の力が事業を牽引していく

まず、牧田さんより、マイオリッジについてご紹介ください。

牧田 iPS細胞の研究の現状としては、培地コストや培養スペースの問題、複数の細胞を生体内の臓器と同じように構造化できないなどといった問題解決に、今、世界中の細胞製品開発企業が取り組んでいます。私たちはこれまで、プロテインフリー培地によるiPS細胞由来心筋細胞の作製や、装置メーカーさんや培養基材・化学品メーカーさんとの共同開発で、細胞培養に必要なインフラ技術に取り組んできました。その結果、高額なタンパク質を使わず、低分子化合物を組み合わせた培養液を使用して、製造コストを低く抑えつつ、ロット間均一性に優れ、かつヒトの成熟心筋細胞に近い性質を持ったiPS細胞由来心筋細胞の開発に成功しました。この製品をベースに、「iPS細胞由来心筋細胞の販売事業」、「分化誘導技術等のライセンスアウト事業」、「再生医療等製品の開発にかかる研究受託」の3つの柱で事業を展開しています。

起業当時のことを教えてください。

牧田 工学研究科の学生時代に、京都大学物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)の南一成先生(現大阪大学)の研究室で、細胞培養や細胞画像解析のプログラミングなど、iPS細胞の研究をサポートするアルバイトをしていたんです。卒業時に、南先生のお声がけで、当時の取締役CTOである末田伸一さん(京都大学iPS細胞研究所所属(当時))と一緒に、南先生の研究成果を創薬や新薬開発に役立てるべく、マイオリッジを設立しました。起業といえば、まず、資金が必要ですので、投資会社へのプレゼンテーションにまず着手しました。とはいえ、全くそちらの世界は素人ですから、専門用語一つから勉強するというスタートでした。

牧田 直大 株式会社マイオリッジ代表取締役社長、CEO
牧田 直大 株式会社マイオリッジ代表取締役社長、CEO

そこで、出会われたのが、Beyond Next Venturesの盛島さんですね?盛島さん、牧田さんの印象はいかがでしたか?大変、若い社長さんだったと思いますが…。

盛島 私たちがマイオリッジさんの存在を知ったのは、2016年10月頃です。プレゼン資料や技術はもちろん、メンバーの顔ぶれや資質など、非常に際立っていたことを覚えています。すぐに京都に行って直接お話を伺いましたが、サイエンスに関するところは、南さんがしっかり考えて答えてくださいました。研究者というだけでなく、ビジネスの事をよく考えたうえでこの会社の構想を練られたことが伝わってきました。牧田さんは、当時は確かにお若くて、おそらくビジネス経験もほとんどなかったと思うので、正直ちょっと心配だなというのが社内でも議論にはなりました。でも、牧田さんには、そんな不安を凌駕するぐらいの芯の強さ、人として信頼できるところをすごく感じたのも事実です。最初はそんな出会いでした。

企業としてマイオリッジのどんなところが印象的でしたか?

盛島 まず、マーケットのニーズを的確に捉えていることと、その起点となる技術が非常にしっかりしているところが、とても魅力的でした。昨今のマーケットニーズでは、動物実験を伴わずに、様々な薬の効果を試験管内で見たいという流れがあるのですが、マイオリッジさんは、そもそもiPS細胞を使って試験管内でプロダクトできるという強みがあって、世のニーズにぴったりフィットしていました。また、コストを抑えつつ、コア技術としてiPS細胞から心筋を誘導するところをすべて低分子でできるというところも非常に価値があり、社会実装化が加速度的に広まっていくのではないか?と考えました。

最終的に投資を決定された決め手は何だったのでしょうか?

盛島 もちろん複合的な理由で決定したわけですが、結局は、「人」なんだと思います。最終的に、人の力が研究も技術開発も販路拡大も牽引していくので、「魅力があり、かつ、力ある人たち」がメンバーであることは大きな魅力だったと思います。年齢は関係ないと思いますね。

牧田 そういえばビヨンドさんと契約を交わした後に、伊藤社長から「マイオリッジさんに投資させていただいてありがとうございます」ってお電話をいただいたんですよ。

盛島 ええ?伊藤がそんなことを言ったのですか?すごくいい話じゃないですか…!(笑)

牧田 ちょうど、京大の楠木(京大のシンボル的な大木)の下で電話を受けて、感動しました。

盛島 ずるいなあ、もう(笑)。でも、マイオリッジさんは、心から「投資させてください」ってこちらから言いたくなるような、素晴らしいアントレプレナーですので、私自身も「ほんとうにうちの投資を受け入れてくださってありがとうございます」と思っています。

盛島 真由 Beyond Next Ventures株式会社執行役員、投資マネージャー
盛島 真由 Beyond Next Ventures株式会社執行役員、投資マネージャー

複数のベンチャーキャピタルが連携して、起業家を強力にあと押ししていく。

次に、京都iCAP(京都大学イノベーションキャピタル株式会社)の八木さんにお伺いします。2020年1月より、マイオリッジへの投資を開始されましたが、その理由を教えてください。

八木 ビヨンドさんが投資を決められた後に、牧田さんと南先生が弊社を訪ねてきてくださったのです。我々の会社はテクノロジーを重視していますが、マイオリッジさんは、人に投与する心筋細胞を、まさにエンジニアリングの対象として見ておられる、工学的に細胞を扱っておられるところが非常に特異で、他社にはないオンリーワンの人たちだな、これは普通の人たちじゃないぞ!と…(笑)。投資する側としても面白いと直感しました。

そこから実際の投資に至るまでの経緯はスムーズに進みましたか?また複数のベンチャーキャピタルが参画することのメリットとはどんなことでしょうか?

八木 実は、私の前任者の時に、一度、マイオリッジさんへの投資を見送ったことがあったんです。技術面では全く問題はなかったのですが、やはり代表の牧田さんがお若いということが若干の不安材料ではありました。ベンチャーといえども、企業のトップになる人は、昔のことや規制環境などを良くご存知の「おじさん」の方が安心という風潮がなきにしもあらずなんです(笑)。“おじさんトップ”というのが比較的デフォルトな中で、牧田さんは、大学卒業したてで大丈夫なのか?といった議論はありました。きっとビヨンドさんには見えていて、我々には見えてない部分があったのでしょう。起業されてからの成長曲線はほんとうに素晴らしいです。

盛島 LP(有限責任を持つリミテッドパートナー)さんのお金を預かって運用しているので、そちらに対する責任もあります。でも、牧田さんたち投資先の皆様が喜びを感じながら、情熱を燃やせる目標に向かって、一生懸命ストレッチできるような環境づくりをすることも、とても大事だと思っています。マイオリッジさんの事業自体が非常によくなってきたと実感するようになったのは、やはり、京都iCAPさんとREVICさん(株式会社地域経済活性化支援機構)が、関わられるようになってからだと思います。よりたくさんの“外からの目”で見て、互いに連携して、話し合えるようになってきたことが大きかったですね。

八木 我々、3社はベンチャーキャピタルとして、それぞれ得意分野が違うんです。まず弊社は、マイオリッジさんと同じ京都大学という本拠地にいて、テクノロジーに関してやはり強みがあります。ビヨンドさんは、牧田さんのように若い方が率いる企業やゼロスクラッチから始める会社の育成が非常に得意ですし、REVICさんは会社の経理関係やガバナンスに関して広い知見をお持ちですので、各々が自分の得意な、強いところを持ち寄って、マイオリッジさんの飛躍を支えたいと考えています。

ベンチャーキャピタルの立場から、これからそんな世界に出発したいと考えている若い人へのメッセージをお願いします。

盛島 起業というのは、山あり谷ありですから、「起業をしてまでこれをしたいのか?」という、起業の意義等、自分を支えるよりどころがないと、事業がうまくいかなくなった時に辛くなるリスクはあると思います。が、逆に、「あまり深く考えこまずに、まずはやってみたら?」という思いもありますね。もちろん無理強いはしませんが、誰もが高尚な思いを持って起業するわけではなく、やりながら、考えながらやっていくということもありだと思っています。「自分の技術やアイディアは絶対に面白いから、何かを始めてみたい!」という意欲のある若い方は、ぜひ我が社に相談に来てくださいね(笑)。いえ、本気ですよ。

八木 私たちのような投資をする側が、煽らないということは、最低限のルールにしています。煽って起業させた先には、たぶん、ぺんぺん草も生えないし、不幸になる人が出てくると思いますので…。一方で、盛島さんが言われたように、信念をもってスタートする人もいれば、やりながら自分のレベルを上げていく人もいると思います。どんなケースでも、こちらがしっかり検討して、あと押しをすると決めたのなら、きっちりあと押しをしていきたいと思っています。

八木 信宏 京都大学イノベーションキャピタル株式会社投資第一部長
八木 信宏 京都大学イノベーションキャピタル株式会社投資第一部長

優れた人材が循環してこそ、真のイノベーションが実現する

牧田さんにお聞きします。起業して5年が経ちました。5年を振り返って思うことや、これからのことをお聞かせください。

牧田 私たちの会社が、一番最初に心筋細胞を受注したのが2017年5月で、ものすごく嬉しくて、その受注票をずっとラボに飾っていました(笑)。起業から5年経って、今、アメリカの製薬会社において、弊社の心筋細胞作製方法を使った製品開発のスタートが決まりました。臨床を目指した研究の第一号で、社会実装化に向けて、大きな飛躍につながると思います。我々の最大のミッションは、iPS細胞を使った再生医療が実用化されて、広く、たくさんの人に普及させていきたいということ。本当に効く治療法ほど、誰にでも普及されるべきものですので、今後は、世界のさまざま企業やメーカーさんと新たな研究開発を積極的に協働していきたいです。

牧田さんは土木学科のご出身で、当初は、官僚を目指しておられたと伺っていますが、現在のご自分をどのように感じておられますか?そしてこれからどんなことに取り組んでいきたいと考えておられるのでしょうか?

牧田 在学中は、土木の技術や知識を生かして、「国のために」役立つことをしたいとずっと考えていました。でも、今は、この細胞技術の恩恵を、すべての人々が広く享受できる社会を実現させたいと思っていて、そこはブレてはいないと考えています。街づくりや街の発展のためには、道路や橋といったインフラ技術は欠かせません。再生医療や細胞創薬を含むバイオの世界でもそれは同じだと思っています。私たちが世の中に送り出した新たなブレークスルーとインフラ技術が、企業や国境を越えて、世界中の再生医療産業、創薬技術に貢献できるよう、着実に事業を進めていきたいと考えています。理想を言うと、僕に関わった人はみんなに幸せになってほしいと思っていますが、力不足でそうはなっていないことが多々あり葛藤を抱えております。

八木 お、いいね。こういうところが牧田さんの最大の魅力ですね。

盛島 本当に(笑)。マイオリッジさんの足跡は、今迷っている人たちの背中を押していくと思いますし、そこで人の循環が促進されて、日本におけるイノベーションがぐっと進んでいくと確信しています。多くの方にぜひ、マイオリッジさんに注目していただいて、応援していただければと思います。

皆さま、ありがとうございました。

この記事は、京都iCAPのウェブサイトに掲載されたものです

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