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iPS細胞の臨床応用を実現、細胞医療でアンメットニーズに応える

オリヅルセラピューティクス株式会社

オリヅルセラピューティクスは、iPS細胞由来の再生医療の事業化に特化した研究開発型企業です。iPS細胞や細胞移植にかかる世界的に最高レベルの科学技術力を基盤とし、自社での細胞移植療法の開発と製薬企業が進める医薬品の研究・開発を支援しています。日本には平和や健康を願って丁寧に「オリヅル」を折る文化がありますが、オリヅル社の細胞移植療法の開発・製造も同じ想いで進められています。京都iCAPは、オリヅル社の活動支援を続けると共に、同社が開発する革新的な新薬が医療や患者に貢献する事を望んでいます。

京都大学イノベーションキャピタル株式会社 投資担当者より
#22 iPS細胞の臨床応用を実現、細胞医療でアンメットニーズに応える

2021年4月に設立されたiPS細胞由来の再生医療等製品の事業化を目指すオリヅルセラピューティクス(以下、オリヅルTx)。武田薬品工業(以下、タケダ)と京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の共同研究プログラム「T-CiRA」での研究成果の一部を移転し、社会実装する使命を担っている。シードおよびシリーズAで、タケダや京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)のほか、三菱UFJ銀行、SMBCベンチャーキャピタル、メディパルホールディングス、三井住友信託銀行、三井住友ファイナンス&リース、日本ベンチャーキャピタルからスタートアップとしては異例となる約60億円を調達した。設立時に代表取締役社長兼CEOに就任した野中健史氏と設立準備委員会から参画した取締役副社長兼COOの小川慎志氏に、起業の経緯や同社のiPS細胞技術の強みなどについて聞いた。(聞き手:増田克善 2023年5月取材)

CiRAとタケダの研究を移管、iPS細胞秘術を社会実装へ

会社設立の経緯を教えてください。

小川 T-CiRAの枠組みは山中伸弥先生がリーダーを務め、iPS細胞の臨床応用で有望なもの、創薬につながりそうなものを研究しています。具体的には、がん、心不全、糖尿病、神経変性疾患、難治性筋疾患などの疾患領域で臨床応用を目指していました。その中で臨床開発に近かったのが、重症心不全治療へ応用する心筋細胞と1型糖尿病治療へ応用する膵島細胞の2つのプロジェクトでした。ただ2021年当時、タケダは心臓血管系や代謝疾患系が研究開発の注力領域ではなかったので、臨床開発を行うためには新たな取り組みが必要でした。他社へのライセンスアウトなどが考えられましたが、研究から開発までシームレスにして研究チームが開発に携わる方が成功確率は高いというのが自明でしたので、スピンアウトして新会社を設立しようということになりました。

私自身はタケダで消化器疾患の創薬研究に携わっていましたが、今後は細胞治療や再生医療に舵が切られていくと理解していたので、その開発に携われることは有用だと思い新会社設立準備段階から参画しました。また起業に関わる事ができるのは、またとない経験だという思いもありました。反面、新会社に加わるメンバーは京都大学やタケダを退職して参画するわけですから、私自身が新会社に移籍することを決断し、皆さんに希望を示す必要がありました。

創業時に約60人でスタートしたうち、幸い十数名がT-CiRAから転籍してくれました。私の説得云々ではなく、それまで情熱と時間を費やしてきた研究対象を社会実装まで続けたいという考えが強かったのではと推測しています。

(小川慎志 取締役副社長兼COO)
(小川慎志 取締役副社長兼COO)

野中さんは設立時に代表取締役社長兼CEOに招聘されたわけですね。就任の経緯をお教えください。

野中 私のバックグラウンドは、心臓外科医として臨床経験を経て万有製薬(現MSD)をはじめ、外資系製薬企業の臨床開発部門で事業化の経験を積んできました。再生医療等製品の経験はありませんでしたが、そうした経歴が声をかけていただいた理由の1つだと思っています。

開発部門を率いていたときは、部下にはキャリアビジョンを明確にして長期的に取り組むべきと言いながら自分自身は目の前の業務に専念していました。それゆえ社長業には受け身でしたし、ベンチャーを立ち上げるなど考えてもいませんでした。その機会をいただいてまず思ったことは、山中伸弥先生の研究のシーズであることが非常に魅力的で嬉しい気持ちでした。同時にiPS細胞の実用化で社会貢献する一翼を担えるという思いで就任を受けました。

(野中健史 代表取締役社長兼CEO)
(野中健史 代表取締役社長兼CEO)

目指す組織像として「セルフマネジメントのできる社員が協働し、スモールカンパニーの長所を最大限に発揮できる組織」を掲げていますね。

野中 スタートアップで働きたいと考える人たちは、自分のやるべきことを自身で決めたいという想いが強いと思われるので、それを最大限尊重するような組織にしたいと考えました。そのためには各社員には自分自身で考え決定することと当事者意識を持つことが重要であり、その2つは“セルフマネジメントできること”です。それが個人にも組織にも備わっていることが重要です。

研究型スタートアップの課題は、自分のアセットに対するこだわりが強く真剣に取り組みますが、そのプロジェクトは成功しても頓挫しても終わりを迎えるので、次に精力的に挑戦できず立ち止まってしまったり、行き場を見失ってしまったりすることです。スタートアップから会社を成長させていくためには、起業のベースとなったアセットだけに留まらないようビジネスを続けていくための共通の下地が必要です。共通のプラットフォームだったり、あるいは共通の文化だったりを作ってこそ会社は変容していくと思っています。

私の職歴を振り返えると、アボットに所属していたとき新会社アッヴィ設立に伴って転籍しましたが、アボットという大会社がゼロから新会社のカルチャーを作ろうとすることを見てきました。そうしたカルチャーがあってこそ人を惹きつけておく魅力になり得ると考えており、組織作りのベースにしようと考えました。

独自の細胞純化法と大量培養技術で強みを発揮

開発事業の内容と技術的な優位性を簡単にご紹介ください。

小川 現在、iPS細胞由来心筋細胞(iCM)事業、iPS細胞由来膵島細胞(iPIC)事業、プラットフォームイノベーション事業の3つが柱です。かつてタケダでは心血管代謝領域が注力領域でしたので、非常に優秀な研究者、専門性の強い人材がそろっていました。そこにCiRAの研究者も参画しており、疾患領域の専門性とiPS細胞の専門性が融合していることが強みです。

iCMにおける特徴の1つは、iPS細胞から心筋細胞に分化させる際の分化効率が高い製法を有していることです。高い安全性を確保するために、未分化のiPS細胞があったり、心筋以外の細胞に分化したりすることを防ぐ必要があります。私たちの分化法は、心筋が分化するときのメカニズムを解析し、心筋以外への分化を抑制する化合物を加えて培養するという特徴があります。また低分子化合物を用いることで製造コストを低減できるメリットもあります。

2つ目の特徴は、移植する細胞の生着率の高さです。心臓の中に移植した細胞が患者様の心筋細胞と一緒に働くことが重要であり、投与した部位にしっかりと生着する必要があります。私たちは生着性が高まるように分化法を最適化しています。

3つ目は、細胞の凝集体を形成させずとも、単細胞のままで心臓に生着できることです。最終的な処方ではカテーテルなどで投与でき、患者様にとっても低侵襲の治療が可能になります。

iPICでも、iCMとは異なる低分子化合物を用いたオリジナルの分化プロトコルを確立しており、同様に低コストの製造を可能にしています。膵島(ランゲルハンス島)は血糖値をコントロールする働きがあり、血糖値を上げるグルカゴンを分泌するα細胞と、血糖値を下げるインスリンを分泌するβ細胞が一定の比率で存在します。その比率でiPICを作製することが重要であり、私たちの技術はヒトの膵島構造を再現した細胞の凝集体を作ることができます。現在、重度の1型糖尿病患者様に対する膵島移植は圧倒的なドナー不足が生じています。そうした膵島移植を待っている患者様に対して、iPICは非常に有効な治療として期待できます。

野中 プラットフォームイノベーション事業は、最先端のiPS細胞技術や周辺技術の利活用を推進する再生医療研究基盤の整備です。その基盤を活用し、他の事業会社などと協業することで新たな創薬アプローチによる医薬品の研究開発を支援していきます。iCMやiPICなどの開発品を作る事業とは収益性はまったく異なり、事業規模も大きくはないですが、iPS細胞による再生医療や医薬品を社会に根付かせる事業と言えます。

2026年に臨床データ取得、IPOへ

製品開発事業の今後の見通し、展望についてお聞かせください。

野中 iCMとiPICの2つの再生医療等製品については、2026年までに最初の臨床データを収集し、株式上場を目指します。会社設立時に投資家に対してコミットしていますが、予定通り臨床データを得られる確率は高いと考えています。非臨床開発段階で有効性や生着性を確認できているので、それが臨床試験で変わることは考えられず成功確率は高いと思っています。最初の臨床試験は、京都大学で医師主導治験として実施していく計画です。その臨床試験がスムーズに実施できるよう、オペレーションを整備していかなければなりません。

現在開発を進めているのは2つの再生医療等製品の第1世代であり、今後第2世代、第3世代では細胞の改良を進めていきます。例えば、抗原反応を弱めて免疫抑制剤を少なくした製品を作る、あるいは移植方法についても様々な改良を加えていくことになります。同時に、iCMとiPICに続く3番目、4番目の研究開発が大事になってきます。例えば、iPICの分化精製技術が他の内分泌細胞への分化に転用でき、そこにニーズがあれば開発していくことになります。

最後に起業を考えている人にアドバイスをお願いします。

野中 社長というポジションに就くケースは様々でしょうが、オリヅルTxの創業では設立の準備がしっかり整っていたし、VCなどの支援もあっという点では幸運でした。社長への転身により当然ながら責任は大きくなりますが、自身の視野も広がるし、自分の意思決定によりやり甲斐も大きくなります。機会があればチャレンジしていただきたいと思います。そういう機会というのは多くはないでしょうから、チャンスを逃すことなく挑戦すべきだと思います。

小川 外資・内資系の医薬大手企業に20年以上所属していましたが、研究者は特に数年ごとにポジションがなくなるなど流動性が高く、研究分野のスキルだけではキャリア形成の幅が狭まるかもしれません。スタートアップを立ち上げる、あるいは参画することは、研究に加えていろいろな業務に携わる事ができるチャンスであり、将来のキャリアには必ずプラスになるので、実現したい事があるならぜひチャレンジしてほしい。かつては起業で一度失敗すると人生も終わってしまうようなイメージが強かったと思いますが、昨今は失敗した人はいくらでもいます。失敗から学ぶことで2回目、3回目のチャンスがあります。資金援助の話があれば非常に幸運であり、ぜひ挑戦してほしいと思います。

この記事は、京都iCAPのウェブサイトに掲載されたものです

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