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Philo-へのお問い合わせから共同研究プロジェクトの組成まで。企業と京都大学のコラボレーションの進め方をご紹介。

「産学連携情報プラットフォームPhilo-」は、京都大学とのさまざまなコラボレーションを希望する企業の窓口。お問い合わせいただいた企業のニーズに合う研究者とのマッチング、共同研究プロジェクトの組成などを行っています。

本記事では、コンサルティングとプロジェクトマネジメントを担当する、京大オリジナル株式会社の夏目典明さんに、コラボレーションの進め方について詳しくお話しいただきました。

【聞き手:杉本恭子(ライター)】

「技術」をキーとするコラボレーションの基本的な進め方

——Philo-では「技術」と「人間」に大きく入り口を分けています。まずは「技術」側のお問い合わせについて、具体的にはどんなプロセスでプロジェクトが進むのか教えてください。

夏目:まず、京大オリジナルでお問い合わせの内容を確認し、ご要望のテーマに応じて「研究者リスト」を作成します。その次に、企業にそのリストを確認いただき、ご面談を希望される先生の候補を挙げていただきます。

その際、「先生のどの研究に興味をもったか」「なぜ興味をもったか」「自社とのコラボレーション仮説は何か(商品化や事業化、社会実装など)」「その上で何を質問したいか」などを「質問事項シート」に自由に記入していただきます。このとき、我々とディスカッションを行い、その企業の事業戦略を理解させていただいた上で、コラボレーション仮説のブラッシュアップを行ったり、先生への質問事項、先生へのヒアリング資料を一緒に練り上げたりすることも可能です。

——Philo-チームで一緒に動いている、京都大学イノベーションキャピタル株式会社(以下、京都iCAP)、株式会社TLO京都(以下、TLO京都)とは、どのように連携されるのでしょうか。

夏目:具体的な特許・知的財産活用に関するお問い合わせはTLO京都と連携して対応しています。また、研究者リストを作成するときや、特許に関する事務手続きに関しては、TLO京都にアドバイスを依頼することがあります。共同研究プロジェクトから事業化を検討するときは、京都iCAPに相談するケースも出てくると思います。

企業活動にさまざまな視点を組み込む人文系プロジェクト

——それでは、「人間」側に想定されるプロジェクトについてはどのように進められるのでしょうか。

夏目:「人間」側のお問い合わせは、「技術」よりも幅広くあいまいであることも多いので、まずはお話を伺ってから京大オリジナルが提案書を作成します。目的の再設定、目的のブレイクダウン、プロジェクトの実施事項とスケジュールを提案書に盛り込むことが多いです。

プロジェクト内容に合意が得られたら、プロジェクトの実施事項とスケジュールに沿ってプロジェクトを進めます。京都大学の図書館やインターネットで文献調査を行い、問いの抽出と問いに対する答えを仮説としてとりまとめることが多いです。その仮説に基づいて、知見をもっている人文系の先生方をお探しします。そして、ヒアリング資料を作成し、その先生方へヒアリングを行います。

また、ヒアリングの他、先生方に依頼してワークショップを開催することもありますね。この場合は、ワークショップを通して発見したテーマを、人文系の共同研究等で深堀りしていくという流れになります。

——これまで、どのような学問分野の研究者とのマッチングをされたのでしょうか。

夏目:文化人類学、霊長類学、哲学、倫理学、心理学、社会学などですね。やっぱり、問いの抽出をしていくと「消費者」「企業の社員」「BtoBの顧客」など、「人間」に関連する事項が問いになることが多いんです。それに対して、どういうものの見方をするといいかを考えていきます。

京都大学には学問的な知見をもつ一流の研究者が約3000名いらっしゃるので、先生方のご協力のもと、無数にある最先端の学問的見地から企業活動を捉え直せる可能性があります。そこが一般的なコンサルティングファームとの大きな違いかと思います。

たとえば、ある企業で「社内にいろんなプロジェクトが乱立しており統制がとれていない」という課題があったとします。組織コンサルティングでは「バラバラに動くのは無駄なのでやめましょう」と効率化を提案するのですが、我々は「このバラバラな活動が御社らしいですね」と、企業文化として捉える立場に立って学問的に見ていくことも検討します。経済合理性の視点で見れば、「効率化」が主な課題になるかもしれませんが、人間は経済合理性だけで動くわけではありません。そのため、いろいろな視点で組織の活動を見ることも検討の範囲内にしているのです。

そして「このバラバラな活動をする企業文化を研究してみましょう」というときに、同じ人文学系であっても学問によって切り口が違います。たとえば、哲学であれば美学や倫理学も含むので「このバラバラの活動にどういった美しさや善さがあるだろう?」と考えるかもしれません。

あるいは、心理学であれば「バラバラの活動の背景にある、意識的・無意識的な思いとは?」と考えるかもしれませんし、人類学では「バラバラな活動はどのように進化するのか?」と捉えようとするかもしれません。

いまは“組織”というテーマで例を挙げましたが、企業活動全般においてさまざまな学問的視点を組み込んでいくことが、これからの時代には大きな力になると思っています。

ビジネスとアカデミアの間で起きる化学反応をプロデュースする

——ワークショップなどを通して研究者と対話することのアウトプットはどのように考えられていますか?

夏目:ワークショップをご一緒することが多い宮野公樹先生(学際融合教育研究推進センター 准教授)は「プロジェクトの始めと終わりで心の構え方が変化する、その差分こそが価値だ」とよく言われます。研究者から異なる意見を得たうえでワークショップを実施すると、参加者が結論に至るまでに思いを巡らせる深さがまったく違うんですね。また学問的な裏付けを得ることで、既存の価値観から自由になって言語化できるケースもあります。

——学問的背景をもって整理したときに、自分の意見に自信をもって発言できるんですね。

夏目:そうです。「自分の意見としてちゃんと言える」ことが非常に重要です。やはり、担当者の思いが乗せきれていない新規事業って失敗しやすいんです。担当者が自信を持って事業を推進できる素地をつくることが大事だと思います。

——営利追求を目的とする企業と学問的探求を目的とする大学が連携するうえで課題となることはありますか。

夏目:例えば企業と大学では、時間軸に大きな違いがあります。企業は中期計画などを立てて3年~5年の区切りで事業推進することが多いですが、大学の研究者は、長い年月をかけて研究を進めることが多いです。

こうした違いから、企業側と大学側で意識のズレが生じたときに、間に入ってビジネスとアカデミアの言語を翻訳するのも我々の役割です。異なっているからこそ未知なる化学反応が起きて、今までにない思考の探索が可能になります。

今の時代は、従来の企業活動を問い直していこうとする流れのなかにあります。短期的に見れば役に立たなさそうに思われる学問の視点に、可能性を感じる企業のみなさんとのコラボレーションを進めていきたいと思います。


夏目 典明
京大オリジナル株式会社 コンサルティング事業部 部長補佐

京都大学 理学研究科 宇宙物理学専攻卒業の後、野村総合研究所コンサルティング事業本部に入社。
多種多様なコンサルティングプロジェクトに従事する中で、日本の産学連携に何か貢献したいと考えるようになり、京大オリジナル株式会社に転職。現在、同社コンサルティング事業部 部長補佐に従事し、日々奮闘中。

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