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SIC×CIREDS×KUO サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社における2023年度データサイエンス人材育成活動について

サントリーグループの基礎研究を担うサントリーグローバルイノベーションセンター(SIC)では、自社の人材をデータサイエンティストとして育成する取り組み強化が進められています。今回は、その一環として2023年度から始まった京都大学国際高等教育院附属データ科学イノベーション教育研究センター(CIREDS)と京大オリジナル(KUO)の協力によるデータサイエンティスト認定プログラムについて、プログラム始動の経緯や活動の成果などについてレポートします。


データサイエンティスト認定プログラム始動の経緯

サントリーグループとして今後新たな市場を開拓していくためには、自分たちが保有している情報や世の中の情報をもっと有効に活用していく必要があると考えていたSIC。しかし、自社の人材を見てみると、自らが取り組む研究についての実験技術や知識は持ち合わせているものの、世の中の情報を駆使し、新たな価値を見出していくスキルが足りていないと感じていました。

美味しさや健康などの分野において新しい価値を見出していくためには、いかに自分たちがオリジナルのデータを獲得し、活用していくかが重要であり、企業としてそれらの能力を身につけていくためにはデータサイエンス人材の育成が不可欠であるという結論に至ったのが、今回の取り組みが始まったきっかけです。

京都大学とのつながり

そもそもSICでおこなわれる研究では、データを収集し分析するなど、データサイエンスに関連する知識が日常的に使われています。しかし、昨今のビッグデータ化の流れやディープラーニングなどの技術の躍進を自分たちの研究に取り入れて活用していくという点において、本当の意味でデータサイエンスを理解し、研究に活かせる人材はまだまだ少ない状況でした。

そんな状況の中、SICの研究プロジェクトにも参画していたサントリーグループの社員が、京都大学の教授に、データサイエンス人材育成についての相談を持ちかけます。

実はその社員は、サントリーグループの社員でありつつ、京都大学の大学院博士課程に通い情報学を学んでいました。そのため、京都大学のデータサイエンス教育の質の高さを肌で実感しており、また、講義を受けている教授に自身が参画している社内の研究プロジェクトについての相談や技術指導も依頼していました。そのため、その所属先のCIREDSという機関が、企業が求める幅広い知識や情報を有していることも十分に理解していたのです。

CIREDSは、まさにSICが必要としている「データサイエンス」「情報学」「研究」の3つを融合し、大学生や専門家向けに研究・提供している機関です。SICとしてもそれらの高度な知識を持ったデータサイエンティストを育成する必要性を改めて実感していたタイミングであったため、そこから話はスムーズに進み、SICとCIREDS、そして、調整役としてKUOを加えた3組織によるデータサイエンティスト育成プログラムの設計が具体的に始まりました。

SICとCIREDSのパイプ役を果たした社員は、後に「他にも企業向けにデータサイエンス教育を実施している機関はありますが、情報学や研究の分野もしっかり理解し、それらを融合して企業にとって本当に必要な人材を育成していくプログラムを一緒に考えてくれるのはCIREDSしかあり得ないと思いました」と語っています。

このように、今回の認定プログラムは、京都大学の大学院博士課程に通う一人のサントリーグループ社員がきっかけとなって始まりましたが、このプログラムでの研修や指導を通じて、サントリーグループから京都大学大学院へ通う社員がさらに増えるという副次的効果も生まれており、この流れは、リカレント教育を推進しているサントリーグループ全体としても好意的に受け入れられています。


2023年度 認定プログラムの概要

半年間に渡る認定プログラムには10〜15名のSIC社員が参加。2023年5月のスタートから各部署でテーマを設定し、個々の取り組み内容を計画書にまとめたうえで、各自が実プロジェクトをベースにしたテーマに取り組んでいきました。データサイエンティストである各分野8名の先生方からの専門的知見によるアドバイスやディスカッションの場が設けられた報告会や中間レビューを経て、2023年11月に最終発表会を実施。最後にCIREDS/KUO側で合格者を選定し、データサイエンティストとしての認定証を発行するという流れで、プログラムは終了しました。

2023年度 認定プログラムの流れ

※認定プログラムで使用した動画補助教材(京都大学データサイエンス講座)
https://kyodai-original.socialcast.jp/contents/category/kuo_datascience

認定プログラムでの取り組みテーマ

各社員が取り組んだテーマについては、実際のプロジェクトをベースにしているため公開はできませんが、「美味しさ」「健康」「サステナビリティ」といったSICが追求する3つの分野に関連するものがテーマとして取り上げられました。

●取り組みテーマイメージ ※実際の取り組みテーマとは異なります。


 参加者の声と今後の課題や展望

本プログラムにおける獲得目標の達成度

  • データ解析でやりたいことを論理的に説明できる能力について
    重点領域テーマにおいて、成し遂げたいことを論理的に説明できる能力が身についた。
  • 達成するためのデータを探す能力について
    過去のヒト試験データやオープンデータを探索・取得し、目標到達に向けた解析をおこなう準備を整えられるようになった。しかし、一部のテーマにおいて、目標に到達するためのデータが取得できず先へ進めなかったり、データの準備ができていない場面も見られた。
  • データから情報を取り出し、知識を抽出する能力について
    先生方からの的確な指導・意見をもとに、適切な方法でデータをクレンジング・整理したうえで解析方法を選択・実施し、既報と合致したデータや新たな知見を得られるようになった。
  • 知識から原理を見出し、判断材料をまとめて新技術の創造に繋げる能力について
    得られた知識から原理を見出し、既報調査を実施することにより、判断・考察する力を身につけることができた。しかし、新技術の創造(価値の拡大)においては、結果を出すことができず、今後の予定の範疇にとどまった。

参加者の声(参加して良かった点)

  • 統計の基礎を再学習できた。
  • 情報系の教授や先生方と繋がりを持つことができた。
  • 目的の設定からデータの扱い方、機械学習する上での考え方、考慮すべきポイント、論文化に必要なことをご教授いただけた。
  • 普段の仕事では関われない幅広い知識を持った先生方と議論ができて視野が広がった。
  • 一同に集まったことで、様々なチームがどのようなテーマに取り組んでいるのかも知ることができて良かった。
  • 実際の業務を題材にすることで、具体的に業務で活用できた。
  • データサイエンススキルをアップさせようというマインドが高まり、実際に勉強するようになった。

今後の課題

 幅広い知識を持った先生方とさまざまな議論ができたが、各部署で実プロジェクトをベースにしたテーマを設定しているため、それらすべての分野に精通した専門の教授を割り当てることはできなかった。また、情報系の教授や先生方と繋がりを持つことができた一方で、相談やディスカッションの場が十分とは言えず、参加メンバー同士がデータサイエンスにおける議論をおこなう機会も少なかった。

⇒これら課題についてはすでに改善/改良が進められており、2024年度にはブラッシュアップした形で新たな認定プログラムの実施が予定されています。


 2023年度 認定プログラムを終えて

SIC/CIREDS代表者の感想コメント

「例えば、人材教育をピラミッド型のイメージで考えた場合、京都大学のような大学(主に理工系)では、ピラミッドの頂点部分に着目し、その部分にあたる人材の引き上げを考えがちです。しかし、企業の目線で言うと、最先端AIの分野などでは特に、頂点部分の人材を教育すればするほどその人材を引き抜かれるリスクが生じるため、トップの人材をどこまで教育すれば良いのか悩ましく思われることもあるようです。一方で、DX推進などにおいては、どちらかと言えばピラミッドの裾野部分の拡大が重要で、この部分の人材教育に力を入れる企業が多く見られます。CIREDSとしても、一般的に大学に期待されがちな “頂点引き上げ型”だけでなく、もっと企業に寄り添った“裾野拡大型”の人材教育にも力を入れていきたいと考えており、そういった意味で今回のSICとのコラボレーションは我々に与えられた挑戦でもありますので、今後も継続して取り組んでいきたいと思います」

京都大学国際高等教育院附属 データ科学イノベーション教育研究センター 田村 寛(情報学研究科 併任教授)

「SICには、DX分野における自身のスキルアップに意識が向いていない社員がまだまだいるように感じていますが、今回のようなプログラムを定期的に実施し、毎年確実に人材が育っていくと、周りの社員たちにも、“自分もやらねば”という気持ちが醸成されていくかと思います。そういう意味でも、専門知識を持った人材の裾野拡大は我々にとって非常に重要でありますし、かつ、今回の報告会や中間レビューでのディスカッションなどで先生方の多彩な視点や技術革新の可能性に触れていると、当然、頂点の人材の引き上げや、新技術の開発につながるインプットもどんどんしていただけると感じましたので、引き続きご協力のほどお願いしたいと思います」

サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社 ぜい田 満広(新規ビジネス開発部 主幹研究員)

企業におけるデータサイエンス人材の育成支援に取り組んでいる京都大学国際高等教育院附属データ科学イノベーション教育研究センター/京大オリジナルでは今回のような認定プログラムだけでなく、より人材の裾野拡大に適した動画教材なども多数ラインアップしています。ご興味のある企業の皆さまはぜひ京大オリジナル窓口までお問い合わせください。


【サントリーグローバルイノベーションセンターについて】
サントリーグループの基盤技術研究を担う会社として2013年に創業。研究を通じて「未来」のお客様にとっての価値を創造することをミッションとして掲げている。主な研究領域は、ビールや飲料などを美味しくしていくための技術開発・研究開発をおこなう「美味の追求」、特定保健飲料やサプリメントなどにどのような素材を使用してどんな効能・効果を生み出せばよいかを研究する「健康先取り」、水やサントリー商品の原料となる植物(ホップなど)および森林のかん養​​に関する研究などをおこなう「サステナビリティ」の、大きく分けて3つ。研究成果として、世界初の「青いバラ」や美味しいトクホ「特茶」の開発など、これまでさまざまなフロンティア製品の誕生に貢献してきた実績がある。社員一人ひとりが、サントリーグループに脈々と受け継がれている「やってみなはれ」の精神で「人間の生命の輝き」をめざし、新たなお客様価値の探求と自然科学のさらなる追求に挑戦している。

【京都大学国際高等教育院附属 データ科学イノベーション教育研究センターについて】
2017年4月に、情報学・統計学・数理科学に関する教育およびこれに必要な調査研究などをおこなうため、京都大学国際高等教育院に設置された組織。京都大学に在籍する教員が連携し、情報学・統計学・数理科学に関する基盤教育を、学部から大学院まで効果的に提供できる体制を整備し、データ科学者の養成や第4次産業革命をトップレベルで支える人材育成をおこなうことを目的としている。文部科学省による「数理及びデータサイエンスに係る教育強化」拠点校に選定されており、予算措置を受けた2017年度には、従来から開設してきた「統計入門」や「数理統計」等に加え、学部・大学院のニーズを踏まえた開設科目を具体化。カリキュラム整備・科目の設計などをおこなうとともにe-learning教材を開発し、2018年度からは体系的な情報学・統計学・数理科学教育を展開。また、「数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアム」の立ち上げ構成員でもあることから、積極的な情報提供や役割分担などを通じて、全国的なモデルとなる標準カリキュラムや教材の作成にも貢献している。

【京大オリジナルについて】
京都大学がその研究成果の活用を促進するための事業会社として2018年6月に設立。コンサルティング事業(産業界との技術シーズ連携を進めるマッチング支援や大学側の技術シーズを発信するマッチングイベントなど)と研修・講習事業(企業幹部等の特定層向けの専門講座や科学技術、文化芸術等、一般層に向けた教養講座)を軸とし、京都大学の「知」を産業界や社会に循環させて収益化を図り、その収益を還元することで教育研究活動をさらに活性化させることを目的としている。また、他の京大子会社と連携し、産学連携の情報発信などもおこなっている(産学連携プラットフォーム「Philo-」)。

未来を模索している企業の皆さま、
京都大学にぜひご相談ください!